マタイの福音書第27章第27節~第31節:兵士たちがイエスさまをばかにするマタイの福音書第27章第1節~第10節:ユダが首をつる

2015年12月05日

マタイの福音書第27章第11節~第26節:ピラトの前でのイエスさまの裁判

第27章



(英語は[NLT]、日本語は私の拙訳です。)


Jesus’ Trial before Pilate

ピラトの前でのイエスさまの裁判


11 Now Jesus was standing before Pilate, the Roman governor. “Are you the king of the Jews?” the governor asked him. Jesus replied, “You have said it.”

11 さて、イエスさまはローマ総督のピラトの前に立っていました。総督はイエスさまにたずねました。「あなたはユダヤ人の王ですか。」 イエスさまは答えました。「あなたがそれを言ったのです。」

12 But when the leading priests and the elders made their accusations against him, Jesus remained silent.

12 しかし祭司長たちと長老たちがイエスさまに対する告発を述べたときにはイエスさまは黙っていました。

13 “Don’t you hear all these charges they are bringing against you?” Pilate demanded.

13 ピラトは強くたずねました。「彼らがあなたに対して持ち込んでいる、これらの告発があなたには全部聞こえないのですか。」

14 But Jesus made no response to any of the charges, much to the governor’s surprise.

14 しかしイエスさまはどの訴えにも何も答えませんでした。総督はこれには非常に驚きました。

15 Now it was the governor’s custom each year during the Passover celebration to release one prisoner to the crowd -- anyone they wanted.

15 ところで毎年総督は過越の祭りの間に、誰でも群衆が望む囚人をひとり、自由にすることを常としていました。

16 This year there was a notorious prisoner, a man named Barabbas.

16 この年はバラバという悪名高い囚人がいました。

17 As the crowds gathered before Pilate’s house that morning, he asked them, “Which one do you want me to release to you -- Barabbas, or Jesus who is called the Messiah?”

17 その朝、群衆がピラトの屋敷の前に集まるとピラトが群衆にたずねました。「あなた方は私にどちらを釈放して欲しいのか。バラバか、それとも救世主と呼ばれているイエスか。」

18 (He knew very well that the religious leaders had arrested Jesus out of envy.)

18 (ピラトは指導者たちが妬みからイエスさまを逮捕したのだとよく知っていたのです。)

19 Just then, as Pilate was sitting on the judgment seat, his wife sent him this message: “Leave that innocent man alone. I suffered through a terrible nightmare about him last night.”

19 ちょうどそのときピラトが裁判の席に着いていたとき、彼の妻がメッセージを届けました。「あの無実の男にかまわずにおきなさい。私は昨晩、あの男の酷い悪夢に苦しんだのです。」

20 Meanwhile, the leading priests and the elders persuaded the crowd to ask for Barabbas to be released and for Jesus to be put to death.

20 そうしている間に祭司長たちと長老たちは、バラバが釈放されるように、そしてイエスさまは死罪に定められるように願うように群衆を説きつけました。

21 So the governor asked again, “Which of these two do you want me to release to you?” The crowd shouted back, “Barabbas!”

21 それで総督はもう一度質問しました。「この者たちふたりのうち、どちらを釈放して返して欲しいのか。」 群衆は叫び返しました。「バラバを!」

22 Pilate responded, “Then what should I do with Jesus who is called the Messiah?” They shouted back, “Crucify him!”

22 ピラトは答えました。「それでは救世主と呼ばれるイエスを私はどうすれば良いのか。」 群衆は叫び返しました。「十字架にかけろ!」

23 “Why?” Pilate demanded. “What crime has he committed?”  But the mob roared even louder, “Crucify him!”

23 ピラトは強くたずねました。「なぜだ。あの男がどんな罪を犯したのか。」 しかし群衆はさらに大きな声で叫びました。「十字架にかけろ!」

24 Pilate saw that he wasn’t getting anywhere and that a riot was developing. So he sent for a bowl of water and washed his hands before the crowd, saying, “I am innocent of this man’s blood. The responsibility is yours!”

24 ピラトは自分では事態のまとめようがなく、暴動が起こりそうなのを目にしました。そこでピラトは鉢に水を持ってこさせ、群衆の前で手を洗って言いました。「私はこの男の血について責任はない。責任はお前たちにある。」

25 And all the people yelled back, “We will take responsibility for his death -- we and our children!”

25 すると群衆全員が叫び返しました。「その男の死の責任は我々が取る。我々と、我々の子どもたちでだ。」

26 So Pilate released Barabbas to them. He ordered Jesus flogged with a lead-tipped whip, then turned him over to the Roman soldiers to be crucified.

26 そこでピラトはバラバを群衆に釈放しました。ピラトはイエスさまを鉛を埋め込んだむちで打ち、それからローマ兵に引き渡して十字架にかけるように命じました。




ミニミニ解説

マタイの第27章です。

イエスさまは逮捕の夜の翌朝、夜明けと共にサンヘドリンによって寺院で改めて死刑の判決を下され、ローマ帝国総督のピラトの法廷へと連れて行かれました。前回は、マタイで独自に編入されていたユダの自殺の箇所を読みました。

今回の場所に対応する箇所は「マルコ」「ルカ」「ヨハネ」のすべての福音書に見つかります。順番に見てみましょう。

マルコはMark 15:2-15(マルコの福音書第15章第2節~第15節)です。

「2 ピラトはイエスに尋ねた。「あなたは、ユダヤ人の王ですか。」イエスは答えて言われた。「そのとおりです。」 3 そこで、祭司長たちはイエスをきびしく訴えた。4 ピラトはもう一度イエスに尋ねて言った。「何も答えないのですか。見なさい。彼らはあんなにまであなたを訴えているのです。」 5 それでも、イエスは何もお答えにならなかった。それにはピラトも驚いた。6 ところでピラトは、その祭りには、人々の願う囚人をひとりだけ赦免するのを例としていた。7 たまたま、バラバという者がいて、暴動のとき人殺しをした暴徒たちといっしょに牢に入っていた。8 それで、群衆は進んで行って、いつものようにしてもらうことを、ピラトに要求し始めた。9 そこでピラトは、彼らに答えて、「このユダヤ人の王を釈放してくれというのか」と言った。10 ピラトは、祭司長たちが、ねたみからイエスを引き渡したことに、気づいていたからである。11 しかし、祭司長たちは群衆を扇動して、むしろバラバを釈放してもらいたいと言わせた。12 そこで、ピラトはもう一度答えて、「ではいったい、あなたがたがユダヤ人の王と呼んでいるあの人を、私にどうせよというのか」と言った。13 すると彼らはまたも「十字架につけろ」と叫んだ。14 だが、ピラトは彼らに、「あの人がどんな悪い事をしたというのか」と言った。しかし、彼らはますます激しく「十字架につけろ」と叫んだ。15 それで、ピラトは群衆のきげんをとろうと思い、バラバを釈放した。そして、イエスをむち打って後、十字架につけるようにと引き渡した。」([新改訳])

ルカはLuke 23:1-25(ルカの福音書第23章第1節~第25節)です。

「1 そこで、彼らは全員が立ち上がり、イエスをピラトのもとに連れて行った。2 そしてイエスについて訴え始めた。彼らは言った。「この人はわが国民を惑わし、カイザルに税金を納めることを禁じ、自分は王キリストだと言っていることがわかりました。」 3 するとピラトはイエスに、「あなたは、ユダヤ人の王ですか」と尋ねた。イエスは答えて、「そのとおりです」と言われた。4 ピラトは祭司長たちや群衆に、「この人には何の罪も見つからない」と言った。5 しかし彼らはあくまで言い張って、「この人は、ガリラヤからここまで、ユダヤ全土で教えながら、この民を扇動しているのです」と言った。6 それを聞いたピラトは、この人はガリラヤ人かと尋ねて、7 ヘロデの支配下にあるとわかると、イエスをヘロデのところに送った。ヘロデもそのころエルサレムにいたからである。8 ヘロデはイエスを見ると非常に喜んだ。ずっと前からイエスのことを聞いていたので、イエスに会いたいと思っていたし、イエスの行なう何かの奇蹟を見たいと考えていたからである。9 それで、いろいろと質問したが、イエスは彼に何もお答えにならなかった。10 祭司長たちと律法学者たちは立って、イエスを激しく訴えていた。11 ヘロデは、自分の兵士たちといっしょにイエスを侮辱したり嘲弄したりしたあげく、はでな衣を着せて、ピラトに送り返した。12 この日、ヘロデとピラトは仲よくなった。それまでは互いに敵対していたのである。13 ピラトは祭司長たちと指導者たちと民衆とを呼び集め、14 こう言った。「あなたがたは、この人を、民衆を惑わす者として、私のところに連れて来たけれども、私があなたがたの前で取り調べたところ、あなたがたが訴えているような罪は別に何も見つかりません。15 ヘロデとても同じです。彼は私たちにこの人を送り返しました。見なさい。この人は、死罪に当たることは、何一つしていません。16 だから私は、懲らしめたうえで、釈放します。」 17 {さて、ピラトは祭りのときにひとりを彼らのために釈放してやらなければならなかった。} 18 しかし彼らは、声をそろえて叫んだ。「この人を除け。バラバを釈放しろ。」 19 バラバとは、都に起こった暴動と人殺しのかどで、牢に入っていた者である。 20 ピラトは、イエスを釈放しようと思って、彼らに、もう一度呼びかけた。21 しかし、彼らは叫び続けて、「十字架だ。十字架につけろ」と言った。22 しかしピラトは三度目に彼らにこう言った。「あの人がどんな悪いことをしたというのか。あの人には、死に当たる罪は、何も見つかりません。だから私は、懲らしめたうえで、釈放します。」 23 ところが、彼らはあくまで主張し続け、十字架につけるよう大声で要求した。そしてついにその声が勝った。24 ピラトは、彼らの要求どおりにすることを宣告した。25 すなわち、暴動と人殺しのかどで牢に入っていた男を願いどおりに釈放し、イエスを彼らに引き渡して好きなようにさせた。」([新改訳])

ヨハネはJohn 18:28-19:16(ヨハネの福音書第18章第28節~第19章第16節)です。すこし次回の部分にかかっています。

「28 さて、彼らはイエスを、カヤパのところから総督官邸に連れて行った。時は明け方であった。彼らは、過越の食事が食べられなくなることのないように、汚れを受けまいとして、官邸に入らなかった。29 そこで、ピラトは彼らのところに出て来て言った。「あなたがたは、この人に対して何を告発するのですか。」 30 彼らはピラトに答えた。「もしこの人が悪いことをしていなかったら、私たちはこの人をあなたに引き渡しはしなかったでしょう。」 31 そこでピラトは彼らに言った。「あなたがたがこの人を引き取り、自分たちの律法に従ってさばきなさい。」ユダヤ人たちは彼に言った。「私たちには、だれを死刑にすることも許されてはいません。」 32 これは、ご自分がどのような死に方をされるのかを示して話されたイエスのことばが成就するためであった。33 そこで、ピラトはもう一度官邸に入って、イエスを呼んで言った。「あなたは、ユダヤ人の王ですか。」 34 イエスは答えられた。「あなたは、自分でそのことを言っているのですか。それともほかの人が、あなたにわたしのことを話したのですか。」 35 ピラトは答えた。「私はユダヤ人ではないでしょう。あなたの同国人と祭司長たちが、あなたを私に引き渡したのです。あなたは何をしたのですか。」 36 イエスは答えられた。「わたしの国はこの世のものではありません。もしこの世のものであったなら、わたしのしもべたちが、わたしをユダヤ人に渡さないように、戦ったことでしょう。しかし、事実、わたしの国はこの世のものではありません。」 37 そこでピラトはイエスに言った。「それでは、あなたは王なのですか。」イエスは答えられた。「わたしが王であることは、あなたが言うとおりです。わたしは、真理のあかしをするために生まれ、このことのために世に来たのです。真理に属する者はみな、わたしの声に聞き従います。」 38 ピラトはイエスに言った。「真理とは何ですか。」彼はこう言ってから、またユダヤ人たちのところに出て行って、彼らに言った。「私は、あの人には罪を認めません。39 しかし、過越の祭りに、私があなたがたのためにひとりの者を釈放するのがならわしになっています。それで、あなたがたのために、ユダヤ人の王を釈放することにしましょうか。」 40 すると彼らはみな、また大声をあげて、「この人ではない。バラバだ」と言った。このバラバは強盗であった。1 そこで、ピラトはイエスを捕らえて、むち打ちにした。2 また、兵士たちは、いばらで冠を編んで、イエスの頭にかぶらせ、紫色の着物を着せた。3 彼らは、イエスに近寄っては、「ユダヤ人の王さま。ばんざい」と言い、またイエスの顔を平手で打った。4 ピラトは、もう一度外に出て来て、彼らに言った。「よく聞きなさい。あなたがたのところにあの人を連れ出して来ます。あの人に何の罪も見られないということを、あなたがたに知らせるためです。」 5 それでイエスは、いばらの冠と紫色の着物を着けて、出て来られた。するとピラトは彼らに「さあ、この人です」と言った。6 祭司長たちや役人たちはイエスを見ると、激しく叫んで、「十字架につけろ。十字架につけろ」と言った。ピラトは彼らに言った。「あなたがたがこの人を引き取り、十字架につけなさい。私はこの人には罪を認めません。」 7 ユダヤ人たちは彼に答えた。「私たちには律法があります。この人は自分を神の子としたのですから、律法によれば、死に当たります。」 8 ピラトは、このことばを聞くと、ますます恐れた。9 そして、また官邸に入って、イエスに言った。「あなたはどこの人ですか。」しかし、イエスは彼に何の答えもされなかった。10 そこで、ピラトはイエスに言った。「あなたは私に話さないのですか。私にはあなたを釈放する権威があり、また十字架につける権威があることを、知らないのですか。」 11 イエスは答えられた。「もしそれが上から与えられているのでなかったら、あなたにはわたしに対して何の権威もありません。ですから、わたしをあなたに渡した者に、もっと大きい罪があるのです。」 12 こういうわけで、ピラトはイエスを釈放しようと努力した。しかし、ユダヤ人たちは激しく叫んで言った。「もしこの人を釈放するなら、あなたはカイザルの味方ではありません。自分を王だとする者はすべて、カイザルにそむくのです。」 13 そこでピラトは、これらのことばを聞いたとき、イエスを外に引き出し、敷石(ヘブル語ではガバタ)と呼ばれる場所で、裁判の席に着いた。14 その日は過越の備え日で、時は第六時ごろであった。ピラトはユダヤ人たちに言った。「さあ、あなたがたの王です。」 15 彼らは激しく叫んだ。「除け。除け。十字架につけろ。」ピラトは彼らに言った。「あなたがたの王を私が十字架につけるのですか。」祭司長たちは答えた。「カイザルのほかには、私たちに王はありません。」 16 そこでピラトは、そのとき、イエスを、十字架につけるため彼らに引き渡した。」([新改訳])。

いつものように「マタイ」・「ルカ」=「マルコ」+「Q資料」+「独自の資料」の式にあてはめると、今回のマタイの記述はほぼ「マルコ」から引用していることがわかります。またこの箇所はすべての福音書を並べて読むことで、実際にピラトが判決を下すまでに起こった出来事をより具体的に思い浮かべることができます。


下は夜明けの正式な議会のために大祭司邸から寺院へ向かう経路と、寺院からピラトが執務していたアントニウス要塞に至る経路です。上の俯瞰図は『Holman Bible Atlas』から、下のエルサレムの地図は『New Living Translation: Life Application Study Bible』からです。矢印は私が付けています。

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ポンテオ・ピラトはティベリウス皇帝の統治下のローマ帝国が、ユダヤ属州へ派遣して統治を任せた総督です。任期は西暦26~36年だったとされます。

ピラトは通常はイスラエル中部のサマリア地方で地中海に面したカイサリアで執務していましたが、過越の祭りなどの行事があるとエルサレムへ上りました。祭りにはたくさんのユダヤ人がエルサレムに集結するので、総督は暴動の発生などに備えなければなりません。ピラトはユダヤ人に対する暴虐な弾圧を行ったようで、水道建設のために寺院の財宝を使うなどもしてユダヤ人の反ローマ帝国感情を悪化させました。ルカの福音書にはピラトがユダヤ人を虐殺したことも書いてあります。最後には住民の訴えによって罷免されたようです。マルコやマタイに書かれているピラトとイエスさまのやり取りを読むと、まるでピラトが物わかりの良い人のようにも読めてしまいますが、これは福音書がローマ帝国の支配下でも流布されるように意図されて書かれたため、ローマ帝国を決定的に悪く書くことができなかったからではないか、と考えられています。

第11節、ピラトは「あなたはユダヤ人の王ですか。」とイエスさまにたずねます。当時はユダヤ人の間で反ローマ帝国の感情が煽られて、熱心党などの反乱分子が人を集め、あちこちで暴動の噂であるとか納税拒否であるとか、そういう話が頻繁に聞こえていた時代です。なのでピラトはイエスさまがそういう反乱分子の一人なのか、という意図でこのように質問したのだと思われます。

ピラトはユダヤ人指導者に対して不信感を抱いていたのではないかと思います。イエスさまを殺害しようと画策していたサンヘドリンの指導者たちは、ユダの協力を得てついにイエスさまの宿営地をオリーブ山に特定しました。指導者たちはわざわざローマ帝国に願い出て、イエスさまの逮捕のためにローマ兵の1ユニットを派兵させています。ところが逮捕から戻った兵士からの報告によればイエスさまの側からの抵抗はほとんどなく、逆にイエスさまを守るための弟子たちはイエスさまひとりを置き去りにして逃げ去ってしまったのです。いったいどういうことなのか。兵士の出動は必要だったのか。いまピラトの前に引き出されてきたこの男は、本当に反ローマ帝国の暴動を扇動する危険な活動家なのでしょうか。

ピラトの「あなたはユダヤ人の王ですか。」の質問に対してイエスさまの答えは「あなたがそれを言ったのです。」でした。イエスさまはサンヘドリンが持ち込む様々な罪状に対し沈黙を守っています。ピラトが「あなたはユダヤの王なのですか。」ときいたと言うことは、サンヘドリンがピラトにそう言ったということになります。つまりサンヘドリンは純粋に宗教上の理由だけではピラトから死刑の判決を引き出すことはできないと考えて、神さまに対する冒涜の罪だけではなく、あることないことでっち上げてイエスさまが反ローマ帝国の活動家であるとか、暴動を起こすために人を集めていた、と言うようなことまで言ったのでしょう。

たとえばルカではこの直前に「この人はわが国民を惑わし、カイザルに税金を納めることを禁じ、自分は王キリストだと言っていることがわかりました。」であるとか、「この人は、ガリラヤからここまで、ユダヤ全土で教えながら、この民を扇動しているのです。」というような提訴が含まれています。イエスさまが福音書の中で自分がイスラエルの王だと言っている場面は出てきません。イエスさまは十字架を覚悟してピラトの前に立っています。ピラトが最終的に自分を死刑に定めるためには理由が必要であり、それは状況からして必然的にイエスさまを反ローマ帝国の反乱分子と決めつけるという過程を経ずにはいられないと知っていました。だからそういう判決を下すのはピラトの側の事情のはずだという意味で「(自分がユダヤの王であるとは)あなたがそれを言ったのです。」と言ったのでしょう。サンヘドリンの面々は引き続きイエスさまを告発し続けますがイエスさまは沈黙を守ります。イエスさまは苦しみの杯を飲む覚悟を決めているのです。ピラトはイエスさまの落ち着き払った態度に大変驚きます。

第15節に書かれている年に一度の過越の祭りにローマ帝国の総督が囚人をひとり釈放する慣習は、現時点では史実としてはどこの文献でも確認できていないようですが、こういう慣習がなかったとは言い切れないと言われています。

第16節に登場するバラバ(Barabbas)は「悪名高い囚人」とされていますが、マルコでは「暴動のとき人殺しをした暴徒たちといっしょに牢に入っていた。」と書かれています。当時は熱心党による反ローマ帝国の運動が高まりを見せていた頃で、暴動がイスラエルのあちこちで起こっていました。バラバもそうやって人々を扇動して暴動を起こして捕まった人のひとりで、ローマ軍による鎮圧の中では死者も出たのでしょう。実際にバラバが人を殺したのか、暴動の中で死んだ人の責任をバラバに科したのか、このあたりはわかりませんが、バラバがイスラエルの独立を勝ち取るためにローマ帝国に戦いを挑んだ革命家なのであれば、ローマ帝国から見れば「悪名高い囚人」でも、ユダヤ人にとっては英雄です。

「バラバ」という名前は「Bar(バー)」と「Abba(アッバ)」に分かれます。聖書には「Bar(バー)」が最初に付く名前がいくつか登場しますが、これは「~の子」の意味です。これは他の言語でもよく見られる語形変化です。英語でもたとえば「リチャード(Richard)」の息子(son)が転じて「Richardson」になるなどして「~son」という名前が多数存在します。「バラバ」の後半の「Abba(アッバ)」は「父」「お父さん」のことですので、と言うことは「バラバ」は「お父さんの子供」ということになります。なんだか不思議な名前です。誰だってお父さんの子でしょうから。もしかすると正式な名前は他にあって「バラバ」は単なるニックネームなのかも知れません。

第18節によると「ピラトは指導者たちが妬みからイエスさまを逮捕したのだとよく知っていた。」とあり、つまりピラトはイエスさまは何か正当な理由で逮捕されたのではなく、政治的な理由でサンヘドリンに敵視され、その結果ユダヤ社会から抹殺されようとしていることに気づいたのでした。

ピラト本人は残虐な性格の持ち主であったことが聖書にも歴史資料にも書かれており、基本的にユダヤ民族を迫害していましたから、ピラトはイエスさまというユダヤ人ひとりを死刑に処すことにそれほどのこだわりをも持ったとは思えません。ただここでピラトがあたかもまともな政治家のように書かれているのは、ローマ帝国の支配下で書かれた福音書が、ローマ帝国から不必要な迫害にさらされないようにとの配慮なのでしょう。マタイの第19節にはピラトの妻がイエスさまには関わるな、とのメッセージを届けたと言う独自の記事が挿入されています。これもイエスさまの十字架死の責任からピラトの立場を守ろうとする意図ではないか、と思われます。

ピラトは処刑の理由のないイエスさまの釈放を提案しますが、サンヘドリンはユダヤの英雄バラバの釈放を求めるように群衆を扇動することに成功し、民衆は激しくバラバの釈放とイエスさまの十字架刑を求めます。ピラトは熱狂していく群衆を見て、その中に暴動発生の兆しを見て取ると、サンヘドリンの思惑どおりにイエスさまの処刑を宣告するところへと追い込まれていきます。

第24節にはマタイが独自の記事として、ピラトが群衆の目の前で鉢に水を持ってこさせ、その水で手を洗う場面を挿入しています。これもやはりピラトはイエスさまの十字架死には無関係であり、すべての責任はユダヤ人の側にあるのだと主張する記事になっていますが、実はこの部分の記述はキリスト教徒がイエスさまの死の責任者としてユダヤ人を攻撃する原因となってきたようです。







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マタイの福音書第27章第27節~第31節:兵士たちがイエスさまをばかにするマタイの福音書第27章第1節~第10節:ユダが首をつる