マタイの福音書:第9章マタイの福音書第8章第23節~第27節:イエスさまが嵐を静める

2015年12月24日

マタイの福音書第8章第28節~第34節:イエスさまが悪魔に取り憑かれた二人の男を癒す

第8章




(英語は[NLT]、日本語は私の拙訳です。)


Jesus Heals Two Demon-Possessed Men

イエスさまが悪魔に取り憑かれた二人の男を癒す


28 When Jesus arrived on the other side of the lake, in the region of the Gadarenes, two men who were possessed by demons met him. They lived in a cemetery and were so violent that no one could go through that area.

28 イエスさまが湖の反対側、ゲラサ人の地方に着くと、悪霊に取り憑かれた二人の人が出迎えました。二人は墓地に住んでいて、あまりに狂暴なので誰もその地を通れないほどなのでした。

29 They began screaming at him, “Why are you interfering with us, Son of God? Have you come here to torture us before God’s appointed time?”

29 二人はイエスさまに向かって大声で叫び始めました。「神の子よ、どうして私たちに干渉するのですか。神さまの定めた時に先だって、私たちを苦しめに来たのですか。」

30 There happened to be a large herd of pigs feeding in the distance.

30 そこから離れた所で、たまたま大きな豚の群れが餌を食べていました。

31 So the demons begged, “If you cast us out, send us into that herd of pigs.”

31 そこで悪霊たちはイエスさまに乞い願いました。「もし私たちを追い出すのなら、どうかあの豚の群れの中へ送り込んでください。」

32 “All right, go!” Jesus commanded them. So the demons came out of the men and entered the pigs, and the whole herd plunged down the steep hillside into the lake and drowned in the water.

32 イエスさまは彼らに命じました。「いいでしょう。行きなさい。」 悪霊たちは二人から出て、豚に入りました。そして豚の群れ全体が丘の急斜面を駈け降りて湖へ突っ込み、溺れて死にました。

33 The herdsmen fled to the nearby town, telling everyone what happened to the demon-possessed men.

33 牧夫たちは、悪霊に取り憑かれた男たちに何が起こったかをみなに伝えながら、近くの町へ逃げて行きました。

34 Then the entire town came out to meet Jesus, but they begged him to go away and leave them alone.

34 それから町の人たち全員がイエスさまに会いに出てきました。しかし彼らはイエスさまに立ち去って、彼らを放っておいてくれるようにと願いました。




ミニミニ解説

今回と同じ記述は、「マルコ」と「ルカ」にも見られます。いつものように、「マタイ」・「ルカ」=「マルコ」+「Q資料」+「独自の資料」の公式にあてはめると、今回の部分は「マタイ」と「ルカ」が「マルコ」から採用したと考えられます。長くなりますが、いつものように「マルコ」と「ルカ」のそれぞれの記述を見てみましょう。

「マルコ」はMark 5:1-20(マルコの福音書第5章第1節~第20節)です。「1 こうして彼らは湖の向こう岸、ゲラサ人の地に着いた。2 イエスが舟から上がられると、すぐに、汚れた霊につかれた人が墓場から出て来て、イエスを迎えた。3 この人は墓場に住みついており、もはやだれも、鎖をもってしても、彼をつないでおくことができなかった。4 彼はたびたび足かせや鎖でつながれたが、鎖を引きちぎり、足かせも砕いてしまったからで、だれにも彼を押さえるだけの力がなかったのである。5 それで彼は、夜昼となく、墓場や山で叫び続け、石で自分のからだを傷つけていた。6 彼はイエスを遠くから見つけ、駆け寄って来てイエスを拝し、7 大声で叫んで言った。「いと高き神の子、イエスさま。いったい私に何をしようというのですか。神の御名によってお願いします。どうか私を苦しめないでください。」 8 それは、イエスが、「汚れた霊よ。この人から出て行け」と言われたからである。9 それで、「おまえの名は何か」とお尋ねになると、「私の名はレギオンです。私たちは大ぜいですから」と言った。10 そして、自分たちをこの地方から追い出さないでくださいと懇願した。11 ところで、そこの山腹に、豚の大群が飼ってあった。12 彼らはイエスに願って言った。「私たちを豚の中に送って、彼らに乗り移らせてください。」 13 イエスがそれを許されたので、汚れた霊どもは出て行って、豚に乗り移った。すると、二千匹ほどの豚の群れが、険しいがけを駆け降り、湖へなだれ落ちて、湖におぼれてしまった。14 豚を飼っていた者たちは逃げ出して、町や村々でこの事を告げ知らせた。人々は何事が起こったのかと見にやって来た。15 そして、イエスのところに来て、悪霊につかれていた人、すなわちレギオンを宿していた人が、着物を着て、正気に返ってすわっているのを見て、恐ろしくなった。16 見ていた人たちが、悪霊につかれていた人に起こったことや、豚のことを、つぶさに彼らに話して聞かせた。17 すると、彼らはイエスに、この地方から離れてくださるよう願った。18 それでイエスが舟に乗ろうとされると、悪霊につかれていた人が、お供をしたいとイエスに願った。19 しかし、お許しにならないで、彼にこう言われた。「あなたの家、あなたの家族のところに帰り、主があなたに、どんなに大きなことをしてくださったか、どんなにあわれんでくださったかを、知らせなさい。」 20 そこで、彼は立ち去り、イエスが自分にどんなに大きなことをしてくださったかを、デカポリスの地方で言い広め始めた。人々はみな驚いた。」([新改訳])。

「ルカ」はLuke 8:26-39(ルカの福音書第8章第26節~第39節)です。「26 こうして彼らは、ガリラヤの向こう側のゲラサ人の地方に着いた。27 イエスが陸に上がられると、この町の者で悪霊につかれている男がイエスに出会った。彼は、長い間着物も着けず、家には住まないで、墓場に住んでいた。28 彼はイエスを見ると、叫び声をあげ、御前にひれ伏して大声で言った。「いと高き神の子、イエスさま。いったい私に何をしようというのです。お願いです。どうか私を苦しめないでください。」 29 それは、イエスが、汚れた霊に、この人から出て行け、と命じられたからである。汚れた霊が何回となくこの人を捕らえたので、彼は鎖や足かせでつながれて看視されていたが、それでもそれらを断ち切っては悪霊によって荒野に追いやられていたのである。30 イエスが、「何という名か」とお尋ねになると、「レギオンです」と答えた。悪霊が大ぜい彼に入っていたからである。31 悪霊どもはイエスに、底知れぬ所に行け、とはお命じになりませんようにと願った。32 ちょうど、山のそのあたりに、おびただしい豚の群れが飼ってあったので、悪霊どもは、その豚に入ることを許してくださいと願った。イエスはそれを許された。33 悪霊どもは、その人から出て、豚に入った。すると、豚の群れはいきなりがけを駆け下って湖に入り、おぼれ死んだ。34 飼っていた者たちは、この出来事を見て逃げ出し、町や村々でこの事を告げ知らせた。35 人々が、この出来事を見に来て、イエスのそばに来たところ、イエスの足もとに、悪霊の去った男が着物を着て、正気に返って、すわっていた。人々は恐ろしくなった。36 目撃者たちは、悪霊につかれていた人の救われた次第を、その人々に知らせた。37 ゲラサ地方の民衆はみな、すっかりおびえてしまい、イエスに自分たちのところから離れていただきたいと願った。そこで、イエスは舟に乗って帰られた。38 そのとき、悪霊を追い出された人が、お供をしたいとしきりに願ったが、イエスはこう言って彼を帰された。39 「家に帰って、神があなたにどんなに大きなことをしてくださったかを、話して聞かせなさい。」そこで彼は出て行って、イエスが自分にどんなに大きなことをしてくださったかを、町中に言い広めた。」([新改訳])。

イエスさまの一行は船でガリラヤ湖を渡り、途中ガリラヤ湖に特有の突然の嵐に見舞われましたが、対岸に到着しました。「ゲラサ人の地方(the region of the Gadarenes)」はシリア南部のデカポリス(十都市連合)があった地方で、いまでも古代ローマの遺跡が多数残っている地域です。船はガリラヤ湖北岸のカペナウムを出て、湖の東側に着いたということです。「マタイ」では、到着すると一行を二人の人が出迎えたと書かれています。「マルコ」と「ルカ」には、[新改訳]では「人」「男」とだけ書かれていて、英語の聖書でも「a man」と書かれています。出て来たのが二人なのか、一人なのか、ここは記述が異なります。また、「マルコ」も「ルカ」も、出てきた男は途中で自分の名前を「レギオン」と名乗り、それは「大勢の悪霊が憑依していたから」と書かれています。「レギオン」はローマ帝国の「軍団」のことです。レギオンは10の大隊で構成されていて、全体では5,000~6,000人の軍団兵が所属していたようです。続く話の中で、「マルコ」では湖で溺れ死んだのが2,000頭の豚の群れだった、と書かれていますから、この男には相当数(場合によっては2,000体以上?)の悪霊が取り憑いて、それを称して「レギオン」と名乗ったということでしょう。

男は出てくるとイエスさまに向かって叫び始めますが、「マルコ」や「ルカ」によると鎖を引きちぎり、足かせも砕いてしまうような凶暴な男で、人々は近くを通ることさえ避けていたほどの男なのに、その口から出てくる言葉は、「マルコ」では、「いと高き神の子、イエスさま。いったい私に何をしようというのですか。神の御名によってお願いします。どうか私を苦しめないでください」と神妙な言葉になっています。

男はイエスさまを見ただけでイエスさまが「神の子」であることに気づきました。そしてイエスさまを恐れ、自分を苦しめないようにと懇願しています。これは「悪霊・悪魔(demon/devil)」がどのように生じたかの解釈に通じるものがあります。旧約聖書では、もともと高位の天使として神さまに仕えていたサタンが、あるとき野望を抱いたことで天から追放されたとの解釈が可能ですが、そのときにサタンに従って一緒に地上へ堕とされた天使(全天使の1/3にあたる数)が悪霊となったとのことです。そういう経緯でもともと天にいた悪霊たちは、イエスさまが誰であるかを知っていたのではないか、と説明できます。

「マタイ」が「マルコ」「ルカ」と異なるのは、男の言葉の後半に「神さまの定めた時に先だって、私たちを苦しめに来たのですか」が付加されているところです。これは「マタイ」が独自に追加した部分なのではないかと思われます。「神さまの定めた時」というのは、「終末論」で言う「終わりの日」のことで、そのときには天から再来されるイエスさまがサタンを滅ぼして決着を着けることになっているので、男の中の悪霊は「まだ終わりの日ではないのに、もう自分たちを滅ぼしに来たのか」と恐れているのです。「ルカ」には「底知れぬ所に行け、とはお命じになりませんようにと願った」と書かれていますが、「Revelation(ヨハネの黙示録)」によると「終わりの日」にはサタンと悪魔は「底知れぬ所」に投げ込まれて一時的に閉じこめられることになっています。どうやら悪霊はこの「底知れぬ所」をひどく恐れているのです。

近くに豚の大きな群れが放牧されていて、悪霊は男から追い出されたら、この豚の群れに憑依できるようにしてもらえないか、とイエスさまに願います。ユダヤ人にとって、豚は律法で汚れた動物とされていますから食べることはできません。ですので豚を放牧させていた牧夫は明らかに異国人です。場合によっては数千体にも及ぶ悪霊は、イエスさまの許可を得ると男から抜けて豚の群れへ入ります。悪霊は「神の子」であるイエスさまの命令には絶対服従なので、豚の中に入ることについてもいちいちイエスさまの許可が必要なのでしょう。すると豚に憑依した悪霊は群れを操作してガリラヤ湖畔の斜面を駈け降りさせ、そのまま湖へ飛び込ませます。2,000頭の豚が、狂ったようにキーキーと鳴き声を立てながら丘の斜面を駈け降り、自ら湖へ飛び込んで、そのまま暴れもがきながら溺れ死んでいきます。なんというショッキングな光景でしょうか。悪霊の行動もまったく理解できません。

牧夫たちはこの光景を見て恐れおののいて近くの町へと逃げて行きますが、やがて町の人たち全員がイエスさまに会いに出て来ます。ユダヤ人から見れば、不浄な悪霊が不浄な豚に憑依して溺れ死んだのですから、当然の出来事として喝采するのかも知れませんが、牧夫や町の人たちにとっては2,000頭の豚を失ったのですから、経済的に大変な金額の損失です。「放っておいてくれ」といって、イエスさまを遠ざけようとする気持ちもわかります。「マタイ」で省略されているのはその後の話です。悪霊が出て行った後で、凶暴だった男は正気を取り戻し、イエスさまに着いていきたいと願い出ますが、イエスさまはこれを却下します。残された男は自分に起こった素晴らしい出来事を話して近隣を回ります。凶暴だった頃の男の奇行の噂は周辺一体に拡がっていたでしょうから、別人となった男の証言は大変な説得力を持って迎えられたことでしょう。








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