2015年12月30日

マタイの福音書第2章第1節~第12節:東方からの来訪者

第2章


(英語は[NLT]、日本語は私の拙訳です。)


Visitors from the East

東方からの来訪者


1 Jesus was born in Bethlehem in Judea, during the reign of King Herod. About that time some wise men from eastern lands arrived in Jerusalem, asking,

1 イエスさまがユダヤのベツレヘムで生まれたのはヘロデ王の統治の時代でした。そのころ、東方の土地から賢人が何人かエルサレムに到着してたずねました。

2 “Where is the newborn king of the Jews? We saw his star as it rose, and we have come to worship him.”

2 「生まれたばかりのユダヤ人の王はどちらにおられますか。私たちは、その方の星が上るのを見たのです。私たちはその方を参拝するためにまいりました。」

3 King Herod was deeply disturbed when he heard this, as was everyone in Jerusalem.

3 ヘロデ王はこれを聞くとひどく動揺しました。エルサレムの人もみな同じでした。

4 He called a meeting of the leading priests and teachers of religious law and asked, “Where is the Messiah supposed to be born?”

4 ヘロデ王は祭司長たちと律法学者たちを集めた集会を開いてたずねました。「救世主はどこで生まれるとされているのか。」

5 “In Bethlehem in Judea,” they said, “for this is what the prophet wrote:

5 彼らは言いました。「ユダのベツレヘムです。預言者は次のように書きました。

6 ‘And you, O Bethlehem in the land of Judah, are not least among the ruling cities of Judah, for a ruler will come from you who will be the shepherd for my people Israel.’ ”

6 『ユダの地、ベツレヘムよ。あなたはユダを治める国々の中で、最も小さいものではない。なぜなら支配者はあなたの中から出て、私の民イスラエルを率いる羊飼いとなるのだから。』」

7 Then Herod called for a private meeting with the wise men, and he learned from them the time when the star first appeared.

7 それからヘロデはひそかに賢人たちと会合を持ち、彼らから最初に星が現れた時期を聞き出しました。

8 Then he told them, “Go to Bethlehem and search carefully for the child. And when you find him, come back and tell me so that I can go and worship him, too!”

8 ヘロデは賢人たちに言いました。「ベツレヘムへ行って注意深くその子供を捜しなさい。子供を見つけたら戻ってきて私に教えなさい。私も出向いて参拝できるように。」

9 After this interview the wise men went their way. And the star they had seen in the east guided them to Bethlehem. It went ahead of them and stopped over the place where the child was.

9 この会合の後で賢人たちは彼らの道を行きました。東方で見た星が賢人たちを導いてベツレヘムへ連れて行きました。星は賢人たちの先を行き、子供のいる場所の上で止まりました。

10 When they saw the star, they were filled with joy!

10 賢人たちは星を見て喜びで満たされました。

11 They entered the house and saw the child with his mother, Mary, and they bowed down and worshiped him. Then they opened their treasure chests and gave him gifts of gold, frankincense, and myrrh.

11 賢人たちは家に入り、子供が母親のマリヤと共にいるのを見ました。賢人たちは腰をかがめて子供を拝みました。それから賢人たちは宝の箱を開いて、黄金、乳香、没薬の贈り物を渡しました。

12 When it was time to leave, they returned to their own country by another route, for God had warned them in a dream not to return to Herod.

12 帰る時間になると、賢人たちは他の道を通って自分たちの国へ戻りました。それは神さまが、ヘロデのところへ戻らないようにと夢の中で警告したからです。




ミニミニ解説

これはイエスさまの誕生のときに東方から来た賢人についての不思議な話です。物語ではよく「東方の三博士」などと紹介されますが、賢人(wise men)が三人だったという記述はどこにもなく、イエスさまに捧げた贈り物が黄金、乳香、没薬の三つの品だったことから一人が一つずつ持ってきたという想定で三博士としたのでしょう。英語では複数形になっているので賢人は二人以上のグループだったと言うことです。

それにしてもユダヤ人の誰よりも先にイエスさまの誕生を知っていた、この賢人たちはいったい誰なのでしょうか。この人たちは星に導かれてやって来ました。つまり占星術です。占星術は古代バビロニア(いまのイラクのあたり?)を起源にしていて、紀元前三世紀頃にギリシアに伝わったようです。同じ起源を持つ占星術は後に東方へ進んでインドへ伝わり、インド占星術となります。どちらにしてもイスラエルの地からすれば東方の文化です。占星術を使ってイエスさまの誕生を知った人たちが、はるばる礼拝と贈り物のために訪ねてきたわけで、と言うことはつまりこの人たちはユダヤ人ではなく外国人(異邦人)と言うことになります。そもそも聖書では占いの行為は禁じられています。Deuteronomy 18:10-11(申命記第18章第10節~第11節には次のように書かれています。「10 あなたのうちに自分の息子、娘に火の中を通らせる者があってはならない。占いをする者、卜者、まじない師、呪術者、11 呪文を唱える者、霊媒をする者、口寄せ、死人に伺いを立てる者があってはならない。」([新改訳])。つまりこの東方の外国から来た異邦人は、ユダヤ民族には禁断の占星術を使ってユダヤ人よりも先にイエスさまの誕生を知り、わざわざ遠方より旅をして贈り物と礼拝のために参じたことになります。

最初に「マタイの福音書」を生み出した教会(あるいは教会群)は、もともとファリサイ派のような律法を重視するユダヤ人の中から出てきたのではないか、と書きました。この教会はユダヤ人を母体としたことにより、逆にイエスさまを救世主として認めないユダヤ人から激しく迫害される立場にあったはずです。一方「マタイ」の教会からしてみれば、旧約聖書を熟知していながら、その中にあらかじめ織り込まれていた救世主の預言に気づかないでいるユダヤ人を歯がゆく思っていたことでしょう。その意味で今回のエピソードは、救世主の誕生に気づくのは救世主を待望しているユダヤ人ではなく、ユダヤ世界の外側にいる異邦人であり、それを知る方法もまたユダヤ教では禁じられている占星術なのです。そしてその異邦人は救世主を拝むために、はるばる旅をする労苦を惜しまずにパレスチナの地へやって来ます。まるでソロモン王の栄華を褒め称えるために宝物を持って訪れた異国のシバの女王のように・・・。そうするとこの部分も「マタイ」の教会がユダヤ民族に向けて書いた挑戦のように読めて来ます。第3節に書かれているヘロデ大王やエルサレムのユダヤ人の「動揺」は、賢者の来訪と知らせによる動揺ではなく、イエスさまを救世主として拝む「マタイ」の教会が展開する論証による動揺のようにも読めます。

賢人たちを迎えたヘロデ大王はローマ帝国から任命される形で当時の属領のパレスチナ地区を治めていた王ですが、紀元前4年に没したことが歴史資料として残っているので、つまりイエスさまの誕生はそれよりも前ということになります。ヘロデは救世主誕生について書かれている預言の箇所をたずねます。つまりこれは「マタイ」の教会が行うイエスさまに関する論証の一部です。ここで回答に引用されているのはMicah 5:2(ミカ書第5章第2節)です。「ベツレヘム・エフラテよ。あなたはユダの氏族の中で最も小さいものだが、あなたのうちから、わたしのために、イスラエルの支配者になる者が出る。その出ることは、昔から、永遠の昔からの定めである」([新改訳])。「エフラテ」と言うのはユダヤの十二氏族の一つで、ユダヤ民族が最初にパレスチナの地に入って征服を行ったとき国は氏族ごとに分割されて割り当てられたのです。

ヘロデはこれを確認すると賢人たちを送り出しますが、果たして賢人たちを東方から導いてきた星は、賢人たちを預言どおりにベツレヘムの町へと導いていき、赤子のイエスさまの抱くマリヤの元へと連れて行きます。当時のベツレヘムは人口がせいぜい数百人程度かあるいはもっと少ないとても小さな村だったようです。賢人たちはイエスさまを拝み、携えてきた宝物を捧げます。

捧げられた宝物は黄金、乳香、没薬です。「乳香(にゅうこう)」は樹木から分泌される樹脂で、香として焚いたり、香料の原料として利用されます。「没薬(もつやく)」もやはり樹木から分泌される樹脂で、別名「ミルラ」とも呼ばれます。香として焚いて使うほか、鎮痛薬としても使用されていました。またミイラを作る際に遺体の防腐処理にも用いられていました。Isaiah 60:6(イザヤ書第60章第6節)には次のような記述があります。「らくだの大群、ミデヤンとエファの若いらくだが、あなたのところに押し寄せる。これらシェバから来るものはみな、金と乳香を携えて来て、主の奇しいみわざを宣べ伝える」([新改訳])。これはイザヤ書第60章に書かれている「諸国の民を覆う暗闇の世界に現れる主」の到来に関する預言の一部ですが、つまり賢人の来訪そのものが旧約聖書に記された預言の実現になっていると言うことです。

賢人たちは夢のお告げを得て、ヘロデの元へは帰らずに別の道を通って自国への帰路につきました。歴史資料からも残虐な君主として知られるヘロデは、やがて自分の地位を脅かすであろう救世主を子供のうちに殺してしまおうと狙っていたのです。









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