マルコの福音書第14章第66節~第72節:ペテロがイエスさまを否定するマルコの福音書第14章第43節~第52節:イエスさまが裏切られ逮捕される

2015年11月17日

マルコの福音書第14章第53節~第65節:議会の前に立つイエスさま

第14章



 (英語は[NLT]、日本語は私の拙訳です。)


Jesus before the Council

議会の前に立つイエスさま


53 They took Jesus to the high priest’s home where the leading priests, the elders, and the teachers of religious law had gathered.

53 一群はイエスさまを、祭司長、長老、律法学者たちが集まっていた大祭司の家へ連れて行きました。

54 Meanwhile, Peter followed him at a distance and went right into the high priest’s courtyard. There he sat with the guards, warming himself by the fire.

54 一方ペテロは距離をおいてイエスさまのあとをつけて行き、大祭司の家の庭にまっすぐ入って行きました。ペテロはそこで見張り役たちと一緒に座り、火で身体を暖めました。

55 Inside, the leading priests and the entire high council were trying to find evidence against Jesus, so they could put him to death. But they couldn’t find any.

55 中では祭司長たちと議会の全員が、イエスさまを殺すことができるようにイエスさまに不利な証拠を見つけようとしていました。ところが彼らには一つも見つけることができませんでした。

56 Many false witnesses spoke against him, but they contradicted each other.

56 多くの偽目撃者がイエスさまに不利な発言をしましたが、話が互いに矛盾していました。

57 Finally, some men stood up and gave this false testimony:

57 最後に数人が立ち上がって、次のような偽証をしました。

58 “We heard him say, ‘I will destroy this Temple made with human hands, and in three days I will build another, made without human hands.’”

58 「私たちはこの人が『私は人の手で造られたこの寺院を破壊し、三日のうちに人の手を介さずに別の寺院を建てる』と言うのを聞きました。」

59 But even then they didn’t get their stories straight!

59 しかしそのときでさえも彼らは話の筋道を通せませんでした。

60 Then the high priest stood up before the others and asked Jesus, “Well, aren’t you going to answer these charges? What do you have to say for yourself?”

60 すると大祭司が他の人たちの前で立ち上がってイエスさまにたずねました。「ところであなたはこういう告発に対して答えないのですか。あなた自身はどう思うのですか。」

61 But Jesus was silent and made no reply. Then the high priest asked him, “Are you the Messiah, the Son of the Blessed One?”

61 しかしイエスさまは黙ったまま何も答えませんでした。そこで大祭司はイエスさまにたずねました。「あなたは救世主、つまり聖なる方の息子なのですか。」

62 Jesus said, “I Am. And you will see the Son of Man seated in the place of power at God’s right hand and coming on the clouds of heaven.”

62 イエスさまは言いました。「私である。あなた方は人の子が神さまの右側の力の座に着き、天の雲に乗って来るのを目撃します。」

63 Then the high priest tore his clothing to show his horror and said, “Why do we need other witnesses?

63 すると大祭司は嫌悪の感情を示すために自分の服を引き裂いて言いました。「どうして我々にこれより他の証人が必要なのだろうか。

64 You have all heard his blasphemy. What is your verdict?” “Guilty!” they all cried. “He deserves to die!”

64 あなた方全員がこの人の冒涜を聞いたのです。あなた方はどう考えますか。」彼ら全員が叫びました。「彼は死にふさわしい。」

65 Then some of them began to spit at him, and they blindfolded him and beat him with their fists. “Prophesy to us,” they jeered. And the guards slapped him as they took him away.

65 それから何人かがイエスさまにつばを吐きかけ始めました。彼らはイエスさまに目隠しをしてこぶしで殴りました。「我らに預言してみよ」と彼らはあざけりました。見張り役はイエスさまを連れ去るときにイエスさまを平手で打ちました。




ミニミニ解説

オリーブ山でイエスさまを逮捕したローマ帝国軍のユニットは、イエスさまを大祭司の家へ連れて行きます。時刻は深夜です。

当時のエルサレムは周囲をグルリと城壁に囲まれた難攻不落の城塞都市でした。オリーブ山は市の東側に位置しており、イエスさまを逮捕した一群はまずエルサレムの城壁に沿って谷底を南へと下り南東部の城門へと至ります。ここから城壁の内側に入り、市内の南部を西側へ横切って最西端にある大祭司邸に至ります。


下の地図は逮捕時のイエスさまの経路です。上の俯瞰図は『Holman Bible Atlas』から、下のエルサレムの地図は『New Living Translation: Life Application Study Bible』からです。矢印は私が付けています。『New Living Translation: Life Application Study Bible』からです。矢印は私が付けています。

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大祭司の家には祭司長、長老、律法学者たちが集まっています。これはイスラエルの最高議決機関であるサンヘドリンのメンバーたちです。これから大祭司の家でイエスさまに宗教裁判の判決を下す臨時国会が開かれようとしているのです。

第54節、すべての弟子たちが散り散りになって逃げ出しましたが、ペテロはひとり、少し距離をおいてイエスさまを連行していく一群に付いていきます。見つかれば逮捕されてしまうかもしれませんから、物陰に隠れながらこっそりとついていったのだと思います。イエスさまが大祭司の家の中へ連れて行かれると、ペテロは誰でもない風を装いながら大祭司邸の中庭へ入っていき、なんと大祭司邸を警備する見張り役たちに混じって身体を暖めるために火にあたります。大胆な行動ですが、きっとイエスさまのことが好きで心配なのに、それを正しい行動に移す勇気が出せず、周囲にキョロキョロと目を配りながら見張り役たちの間に紛れ込んだのでしょう。

第55節によると、大祭司邸に集まったサンヘドリンの議員たちは「全員が」イエスさまを殺すことができるようにイエスさまに不利な証拠を見つけようとしていたのです。何という状況でしょうか。

ローマ帝国の統治下にあるイスラエルではサンヘドリンと言えども勝手に人を処刑することはできませんでした。処刑をローマ帝国に依頼しなければなりません。サンヘドリンはイエスさまを死刑にしてもらうために宗教裁判で有罪判決を下さなければならなかったのです。議員たちはイエスさまの罪状を死刑にふさわしく確定するため、目撃者による証言を求めますが、どの話も決め手を欠き互いに矛盾するなどして、うまくつじつまを合わせることができません。

最後に何名かが神殿を打ち壊して三日後に立て直す話をします。このときの様子はJohn 2(ヨハネの福音書第2章)に出ています。イエスさまが寺院の中で動物を売っている商人や両替をしている商人を追い出したあとで、恐らくその場に居合わせたサンヘドリンのメンバーが「このようなことをするのなら権威を示すためにしるしを見せよ」と言い寄ります。それに答えてイエスさまが言ったのが、John 2:19(ヨハネの福音書第2章第19節)です。「イエスは彼らに答えて言われた。「この神殿をこわしてみなさい。わたしは、三日でそれを建てよう。」」([新改訳])。 ですがこの証言も死刑を求刑する証拠としては使い物になりませんでした。

第60節、しびれを切らした大祭司が自ら立ち上がり、直接イエスさまにたずねます。大祭司というのはイスラエルの宗教権威の頂点にいる存在なので、その大祭司が直接一人の被告人を問いただすというのは異例の事態でしょう。しかしイエスさまは何も発言をせずに黙っています。大祭司に直接問われた被告が黙っている、というのも異例だと思います。

そして最後の最後に大祭司自身から単刀直入の質問が出ます。「あなたは救世主なのか。あなたは神さまの息子なのか」。 ようやく口を開いたイエスさまの答えは「I Am」でした。これはたとえば「I am a boy」という英文の最初の部分、「I am」です。ここの部分だけだと私たちにはうまく訳すことができませんが、「私は私であるものである」「私は私という存在である」みたいなニュアンスでしょうか。

この言葉は私たちには何のことだかさっぱりわかりませんが、実はユダヤ人にはピンと来る名乗り方なのです。ユダヤの歴史上、最大の預言者とされているモーゼが最初に神さまと出会う場面は、旧約聖書の中でも有名な「燃える柴」の場面です。モーゼはある日、ホレブ山中で柴が燃えているのを目撃しますが、その柴は確かに燃えているのにいつまでも燃え尽きません。不思議に思ったモーゼが近づいていくとそこで神さまの声を聞きます。神さまはモーゼにユダヤ人を導いてエジプトを脱出するようにと告げるのですが、モーゼは怖じ気づきます。そんなことをしても、ユダヤの長老たちはモーゼが誰に遣わされてそんなことを言いに来たのかと問うて、きっと耳を貸さないだろう、と反論します。すると神さまが言います。Exodus 3:14(出エジプト記第3章第14節)です。「神はモーセに仰せられた。「わたしは、『わたしはある』という者である。」また仰せられた。「あなたはイスラエル人にこう告げなければならない。『わたしはあるという方が、私をあなたがたのところに遣わされた』と」」([新改訳])。この場面で神さまが自分を名乗って言った『わたしはある』の部分、これがイエスさまが言った「I Am」なのです。

イエスさまが言った後半の部分、「あなた方は人の子が神さまの右側の力の座に着き、天の雲に乗って来るのを目撃します」はやはり旧約聖書の中のダニエル書の第7章を想起させます。ここには「人の子」のような人物が天の雲に乗って来る様子が書かれていて、その人には「主権と光栄と国が与えられ、諸民、諸国、諸国語の者たちがことごとく、彼に仕えることになった」とされています([新改訳])。これはいつか将来の時点、「終わりの日」に世の中に起こることを予言する黙示として信じられていました。 つまりイエスさまは旧約聖書を引用しながら、自分は神さまであり、将来、雲に乗って世界を統治しにやってくる、と宣言しているのです。

大祭司はイエスさまの言葉を聞いて激怒します。イエスさまの「I Am」は自分を神さまだと言ったに等しいからです。しかも宗教裁判の席で大祭司に向かってこれを言うとはどういう態度なのか、これは最大の冒涜だと大祭司は思ったのでしょう。大祭司は自分の着物を引き裂きます。 旧約聖書の中のユダヤ人は、神さまの期待に沿うことができない自分を不甲斐なく思い、自分の罪を悔いて悲しみを示すために、自分の衣を引き裂き、頭から灰をかぶって悲しみと苦悶を表現しました。ですがイエスさまの時代には大祭司自らが、自分の怒りや嫌悪を示す目的で自分の来ている服を引き裂いてそれを表現したようです。本来なら怒っているのは神さまであり、その前に慈悲と許しを乞うてひれ伏すのが人間であるはずなのに、大祭司があたかも神さまのように振る舞って怒ってどうするというのでしょうか。私にはこちらこそが冒涜のように見えますが。

大祭司は「これが冒涜でなくてなんだ」と叫び、議員の全員が「彼は死にふさわしい」と叫んで判決が確定しました。するとイエスさまにつばを吐きかける者、目隠しをして殴っておいて預言者なら誰が殴ったか言い当ててみよと言う者、平手で顔を打つ者などが現れます。 こうなると裁判ではなくて集団によるリンチです。サンヘドリンの議員たちは表面上の取り繕いをやめて、私情をむき出しにしてイエスさまを辱めます。これが議員たちの本当の気持ちだったのです。






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