ルカの福音書第22章第66節~第71節:議会の前に立つイエスさまルカの福音書第22章第47節~第53節:イエスさまが裏切られ逮捕される

2015年10月10日

ルカの福音書第22章第54節~第65節:ペテロがイエスさまを否定する

第22章



 
(英語は[NLT]、日本語は私の拙訳です。)


Peter Denies Jesus

ペテロがイエスさまを否定する


54 So they arrested him and led him to the high priest’s home. And Peter followed at a distance.

54 そこで彼らはイエスさまを逮捕し、大祭司の家へ連れて行きました。ペテロは距離をおいてついて行きました。

55 The guards lit a fire in the middle of the courtyard and sat around it, and Peter joined them there.

55 守衛たちがが中庭の真ん中に火をたいて周囲に座っていました。ペテロは守衛たちにまじりました。

56 A servant girl noticed him in the firelight and began staring at him. Finally she said, “This man was one of Jesus’ followers!”

56 ひとりの召し使いの女性が火あかりの中のペテロに気づいて、じっと見つめ始めました。ついに女性は言いました。「この男はイエスの付き人のひとりです。」

57 But Peter denied it. “Woman,” he said, “I don’t even know him!”

57 しかしペテロは否定して言いました。「お手伝いさん、私はあの人を知ってさえいないのです。」

58 After a while someone else looked at him and said, “You must be one of them!” “No, man, I’m not!” Peter retorted.

58 しばらくして別の誰かがペテロを見て言いました。「おまえは彼らの仲間に違いない。」 ペテロは言い返しました。「いいえ、あなた、私は違います。」

59 About an hour later someone else insisted, “This must be one of them, because he is a Galilean, too.”

59 一時間ほど経って、別の人が強く言いました。「この男も彼らの仲間に違いない。この人もガリラヤ人だから。」

60 But Peter said, “Man, I don’t know what you are talking about.” And immediately, while he was still speaking, the rooster crowed.

60 しかしペテロはいいました。「あなた、私にはあなたが何を言っているのかわかりません。」 その直後、ペテロがまだ話している間に雄鶏が鳴きました。

61 At that moment the Lord turned and looked at Peter. Suddenly, the Lord’s words flashed through Peter’s mind: “Before the rooster crows tomorrow morning, you will deny three times that you even know me.”

61 そのとき主が振り向いてペテロを見ました。突然ペテロの心に主の言葉が浮かびました。「明日の朝、雄鶏が鳴く前までに、あなたは私を知っていると言うだけのことを三度、否定するのです。」

62 And Peter left the courtyard, weeping bitterly.

62 ペテロは激しく泣きながら中庭を出ました。

63 The guards in charge of Jesus began mocking and beating him.

63 イエスさまを任された守衛たちはイエスさまをからかい、たたき始めました。

64 They blindfolded him and said, “Prophesy to us! Who hit you that time?”

64 彼らはイエスさまに目隠しをして言いました。「私たちに預言してみろ。いまたたいたのは誰だ?」

65 And they hurled all sorts of terrible insults at him.

65 それから守衛たちはあらゆる侮辱の言葉をイエスさまに浴びせました。




ミニミニ解説

「ルカの福音書」の第22章です。

この章よりイエスさまの苦難が始まり、前回、イエスさまはゲッセマネで逮捕されました。今回はその続きです。

今回と同じ記述はマルコとマタイに見つかりますが、どちらもルカのようにペテロの三回の否定を一カ所にまとめた編集になっていないため、二カ所に分かれます。

マルコはまずMark 14:53-54(マルコの福音書第14章第53節~第54節)、続いてMark 14:65-72(同第65節~第72節)です。

「53 彼らがイエスを大祭司のところに連れて行くと、祭司長、長老、律法学者たちがみな、集まって来た。54 ペテロは、遠くからイエスのあとをつけながら、大祭司の庭の中まで入って行った。そして、役人たちといっしょにすわって、火にあたっていた。」」65 そうして、ある人々は、イエスにつばきをかけ、御顔をおおい、こぶしでなぐりつけ、「言い当ててみろ」などと言ったりし始めた。また、役人たちは、イエスを受け取って、平手で打った。66 ペテロが下の庭にいると、大祭司の女中のひとりが来て、67 ペテロが火にあたっているのを見かけ、彼をじっと見つめて、言った。「あなたも、あのナザレ人、あのイエスといっしょにいましたね。」 68 しかし、ペテロはそれを打ち消して、「何を言っているのか、わからない。見当もつかない」と言って、出口のほうへと出て行った。{すると、鶏が鳴いた。} 69 すると女中は、ペテロを見て、そばに立っていた人たちに、また、「この人はあの仲間です」と言いだした。70 しかし、ペテロは再び打ち消した。しばらくすると、そばに立っていたその人たちが、またペテロに言った。「確かに、あなたはあの仲間だ。ガリラヤ人なのだから。」 71 しかし、彼はのろいをかけて誓い始め、「私は、あなたがたの話しているその人を知りません」と言った。72 するとすぐに、鶏が、二度目に鳴いた。そこでペテロは、「鶏が二度鳴く前に、あなたは、わたしを知らないと三度言います」というイエスのおことばを思い出した。それに思い当たったとき、彼は泣き出した。」([新改訳])。

マタイはまずMatthew 26:57-58(マタイの福音書第26章第57節~第58節)、続いてMatthew 26:67-75(同第67節~第75節)です。

「57 イエスをつかまえた人たちは、イエスを大祭司カヤパのところへ連れて行った。そこには、律法学者、長老たちが集まっていた。58 しかし、ペテロも遠くからイエスのあとをつけながら、大祭司の中庭まで入って行き、成り行きを見ようと役人たちといっしょにすわった。」「67 そうして、彼らはイエスの顔につばきをかけ、こぶしでなぐりつけ、また、他の者たちは、イエスを平手で打って、68 こう言った。「当ててみろ。キリスト。あなたを打ったのはだれか。」 69 ペテロが外の中庭にすわっていると、女中のひとりが来て言った。「あなたも、ガリラヤ人イエスといっしょにいましたね。」 70 しかし、ペテロはみなの前でそれを打ち消して、「何を言っているのか、私にはわからない」と言った。71 そして、ペテロが入口まで出て行くと、ほかの女中が、彼を見て、そこにいる人々に言った。「この人はナザレ人イエスといっしょでした。」 72 それで、ペテロは、またもそれを打ち消し、誓って、「そんな人は知らない」と言った。73 しばらくすると、そのあたりに立っている人々がペテロに近寄って来て、「確かに、あなたもあの仲間だ。ことばのなまりではっきりわかる」と言った。74 すると彼は、「そんな人は知らない」と言って、のろいをかけて誓い始めた。するとすぐに、鶏が鳴いた。75 そこでペテロは、「鶏が鳴く前に三度、あなたは、わたしを知らないと言います」とイエスの言われたあのことばを思い出した。そうして、彼は出て行って、激しく泣いた。」([新改訳])。

「マタイ」・「ルカ」=「マルコ」+「Q資料」+「独自の資料」の公式にあてはめると、ここは「マルコ」からの採用と言うことになります。

ヨハネの同じシーンも読んでおきましょう。まずJohn 18:12-18(ヨハネの福音書第18章第12節~第18節)、続いてJohn 18:25-27(同第25節~第27節)です。

「12 そこで、一隊の兵士と千人隊長、それにユダヤ人から送られた役人たちは、イエスを捕らえて縛り、13 まずアンナスのところに連れて行った。彼がその年の大祭司カヤパのしゅうとだったからである。14 カヤパは、ひとりの人が民に代わって死ぬことが得策である、とユダヤ人に助言した人である。15 シモン・ペテロともうひとりの弟子は、イエスについて行った。この弟子は大祭司の知り合いで、イエスといっしょに大祭司の中庭に入った。16 しかし、ペテロは外で門のところに立っていた。それで、大祭司の知り合いである、もうひとりの弟子が出て来て、門番の女に話して、ペテロを連れて入った。17 すると、門番のはしためがペテロに、「あなたもあの人の弟子ではないでしょうね」と言った。ペテロは、「そんな者ではない」と言った。18 寒かったので、しもべたちや役人たちは、炭火をおこし、そこに立って暖まっていた。ペテロも彼らといっしょに、立って暖まっていた。」

「25 一方、シモン・ペテロは立って、暖まっていた。すると、人々は彼に言った。「あなたもあの人の弟子ではないでしょうね。」ペテロは否定して、「そんな者ではない」と言った。 26 大祭司のしもべのひとりで、ペテロに耳を切り落とされた人の親類に当たる者が言った。「私が見なかったとでもいうのですか。あなたは園であの人といっしょにいました。」 27 それで、ペテロはもう一度否定した。するとすぐ鶏が鳴いた。」([新改訳])。

オリーブ山のイエスさまの宿営場所の急襲に成功し、狙いどおりにイエスさまを逮捕した一行は、イエスさまを大祭司の家へ連れて行きました。時刻は深夜です。当時のエルサレムは周囲をグルリと城壁に囲まれた難攻不落の城塞都市でした。オリーブ山は市の東側に位置しており、イエスさまを逮捕した一群はまずエルサレムの城壁に沿って谷底を南へと下り南東部の城門へと至ります。ここから城壁の内側に入り、市内の南部を西側へ横切って最西端にある大祭司邸に至ります


下の地図は逮捕時のイエスさまの経路です。上の俯瞰図は『Holman Babile Atlas』から、下のエルサレムの地図は『New Living Translation: Life Application Study Bible』からです。矢印は私が付けています。

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すべての弟子たちはオリーブ山で散り散りになって逃げましたが、ペテロはひとり、少し距離をおいてイエスさまを連行する集団に付いていきます。見つかれば逮捕される可能性がありますから、物陰に隠れながらこっそりとついていったのだと思います。ヨハネの第15節には「シモン・ペテロともうひとりの弟子は、イエスについて行った。」と書かれています。「もうひとりの弟子」はおそらくヨハネです。

大祭司邸は高い壁に囲まれた屋敷で、中庭では火を焚いて暖が取れるようになっていました。イエスさまが大祭司の家の中へ連れて行かれると、ペテロは大胆にも大祭司邸の中へ入っていき、なんと警備の見張り役たちに混じって身体を暖めるために火にあたります。なぜペテロが大祭司邸に入ることができたのか、その理由はヨハネが大祭司の知り合いであったからだとヨハネには書かれています。

第56節、火にあたるペテロのところへ大祭司邸で働いている女性が一人通りかかり、ペテロの顔を見てイエスさまの一味だと告発します。ペテロはこの告発に対して第57節、「お手伝いさん、私はあの人を知ってさえいないのです。」と言い返します。 「一緒に牢に行く。死さえ辞さない。」と言っていたペテロは、一度は剣を抜いて戦いましたが、結局は師の逮捕の場を逃げ出しました。そして女性に詰め寄られると、その場を逃れるために「自分はイエスという人は知らない」と言ったことになります。人は心の中に強く高い意志を持っているつもりでも、実際の困難に直面すると、痛みや苦しみや恥辱を恐れて易きに流れ、その場を逃げ出してしまうものなのです。自分はきっと違う、自分の意志は堅いと考えるのは容易です。ペテロもそう思ったのです。

第58節、今度は別の男性が「おまえは彼らの仲間に違いない。」と言ってペテロに迫ります。ペテロはこれを「いいえ、あなた、私は違います。」と言って再度否定します(二度目の否定)。そして第59節、一時間ほど経った頃、別の人が強い口調で言います。「この男も彼らの仲間に違いない。この人もガリラヤ人だから。」 ガリラヤ地方はエルサレムからサマリヤを越えて100kmほど北方にあります。イエスさまも、十二人の弟子のうち、ユダを除く十一人もガリラヤ人です。ガリラヤ地方は数百年も前に南北朝に分かれたイスラエルの北朝の一部で、外国に滅ぼされて国民の大半が国外へと連れ去られ、代わりに外国人が入植させられた土地です。年月を経て地方独特の方言が生まれたのでしょう。また当時は反ローマ帝国の武装蜂起がガリラヤ地方から始まるケースが多く、自分たちこそが純粋なユダヤ人だと思うエルサレムのユダヤ人は、ガリラヤ人と言えば訛りの強い田舎者で、急進的な反ローマ帝国運動の巣窟から来た人たちのように見られていたのではないかと思います。

これに対してペテロは「あなた、私にはあなたが何を言っているのかわかりません。」と言い切ります。ルカにはありませんが、マルコやマタイには三度目の否定のときには「のろいをかけて誓い始めた。」と書かれています。これはもし自分が嘘をついているのなら、自分の心を見通す神さまから呪いを受けてもかまわない、との宣言にあたります。

第60節、ペテロが三度目の否定をした直後、ペテロはおんどりが鳴く声を耳にします。そして第61節、ちょうどそのとき、おそらく審問の途中なのでしょう、大祭司邸の中から中庭へ出てきたイエスさまと目が合うのです。そしてペテロは第34節でイエスさまに言われた予告を思い出します。「ペテロよ、あなたに伝えさせてください。明日の朝、雄鶏が鳴く前までに、あなたは私を知っていると言うだけのことを三度、否定するのです。」 ペテロは激しく泣きながら中庭を出ていきました。

ペテロはこの後、十字架死から復活したイエスさまと出会い、イエスさまが自分が天に戻る代わりにと言って信者のひとりひとりに与えた聖霊の助けを得て、1世紀にスタートした福音を世の中へ広める伝道活動のリーダー格となります。ペテロがどれほど勇敢に福音を広めたかを読むと、新約聖書の「Acts(使徒の働き)」に書かれていることも、伝承されている話も、その様子は本当に勇敢でまるで別人です。これはペテロが復活したイエスさまに実際に会ったことを間接的に裏付けますし、「イエスさまを知ること」がどのように人を変えるかの典型的な例とも言えましょう。また自分の信仰の弱さを思い悩む人にとっては、ペテロがどれほどたくさんの失敗を積み重ね、それでもイエスさまを見つけ、最後には信者たちのリーダーとなっていった課程を知ることは信仰生活での大きな励みとなります。ペテロは信者のリーダーを務めながら、自分がどのように神さまの役に立てるのか、どのような目的で自分が神さまから選ばれたのかを何度も考えたことでしょう。

イエスさまがペテロと目を合わせたのは、おそらく大祭司アンナスによる予審の尋問の後です。イエスさまは次の審問を待つ間、中庭の隅へと連れて行かれ、そこで守衛たちから暴行を受けます。福音書を比べるとマルコやマタイではイエスさまに暴行を加えているのは、守衛たちではなく、イエスさまを連行してきた人たちです。またペテロをイエスさまの一味であると告発する人たちも異なります。ルカはこの部分をマルコからではなく、独自の資料から書いている可能性もあります。






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