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2015年10月23日

ルカの福音書第9章第51節~第56節:サマリヤ人の敵対

第9章



 
(英語は[NLT]、日本語は私の拙訳です。)


Opposition from Samaritans

サマリヤ人の敵対


51 As the time drew near for him to ascend to heaven, Jesus resolutely set out for Jerusalem.

51 イエスさまが天へ登るときが近づいて来ると、イエスさまは堅い決意を持ってエルサレムへ向けて出発しました。

52 He sent messengers ahead to a Samaritan village to prepare for his arrival.

52 イエスさまはあるサマリヤ人の村へ、到着の準備をさせるために先に使いを送りました。

53 But the people of the village did not welcome Jesus because he was on his way to Jerusalem.

53 しかし村人たちは、イエスさまがエルサレムへ向かっていたため、イエスさまを歓迎しませんでした。

54 When James and John saw this, they said to Jesus, “Lord, should we call down fire from heaven to burn them up?”

54 ヤコブとヨハネはこれを見るとイエスさまに言いました。「主よ、私たちが天から火を呼び降らせて、彼らを焼き滅ぼしましょうか。」

55 But Jesus turned and rebuked them.

55 しかしイエスさまは振り向いて、彼らを戒めました。

56 So they went on to another village.

56 そこで一行は別の村へ行きました。




ミニミニ解説

「ルカの福音書」の第9章です。

第7章以降、イエスさまはガリラヤ地方で伝道活動を行っていますが、今回の第51節より、イエスさまはいよいよエルサレムへ向けて出発します。エルサレムへの到着が書かれるのは第19章ですので、この間の10章分はエルサレムへの旅の途中という構成になっています。今回の部分は「ルカ」以外には見つかりません。「マタイ」・「ルカ」=「マルコ」+「Q資料」+「独自の資料」の公式にあてはめると、この部分は「ルカ」の独自の資料から書かれた部分ということになります。

イスラエルは南北に長い国土で、首都のエルサレムがあるユダヤ地方と、これまでイエスさまが伝道活動を行ったガリラヤ湖のある北部のガリラヤ地方の間には約100キロの距離があります。ガリラヤ湖はイスラエルを南北に切り裂く深い亀裂の底を流れるヨルダン川の川底が深くなったところに水がたまってできた湖でした。ヨルダン川は北のガリラヤ地方から、南のユダヤ地方へと下っていきますが、ガリラヤ地方からエルサレムの都へ上るルートは二つ、川の西側、地中海に面した地域にあるイスラエル中部のサマリヤ地方を抜けるルートか、川の東側を進むルートになります。距離的にはサマリヤ地方を抜けるルートが近いのですが、ユダヤ人はサマリヤ人を嫌って避けていましたので、通常のルートとしてはヨルダン川の東側が選択されました。ですが今回の部分を読むと、イエスさまの一行がヨルダン川の西側、サマリヤ地方を抜けるルートを選択したことがわかります。

ユダヤ人がサマリヤ人を嫌う理由はユダヤ人が純血を尊ぶところにあります。イスラエルの歴史上、ひとつだった王国があるとき南北の二つの王朝に分かれましたが、そのとき南朝のユダヤの首都がエルサレム、北朝のイスラエルの首都がサマリアでした(サマリアは地方名であると同時にサマリアという町もあります)。北朝はやがてアッシリア帝国に滅ぼされてしまうのですが、アッシリアはこのとき植民地政策として上流階級、中流階級のユダヤ人を国外へ連れ去り、代わりに外国人を植民しました。そうやって植民地の国内に民族紛争を起こして揺さぶりをかけ、反抗の矛先が直接アッシリアに向かないように考えられているのだと思います。やがて時が経つとサマリヤ地方に残されたユダヤ人と植民された外国人の交流が始まり、結果としてサマリア地方は下流層のユダヤ人と異国人による混血種のユダヤ人の土地になったのです。純血を尊ぶユダヤ人はサマリア人を忌み嫌いました。そしてサマリア人の土地を通りサマリア人と接触すれば自分が宗教的に汚(けが)れてしまう、と考えました。なので通常イスラエルを南北に縦断する旅人は、わざわざヨルダン川を東側に渡って遠いルートを北上するなどの迂回をしていたのです。

第52節でイエスさまは先に使いを送って到着の準備をさせています。使いは「messengers」と複数になっていますから、最低二人はいたのです。ところが使いの弟子たちが村に到着すると、第53節、サマリヤ人はイエスさまを村に迎えることを歓迎しません。理由は「イエスさまがエルサレムへ向かっていたため」と書かれていますが、ユダヤ人とサマリヤ人は敵対関係にあったので、この村はエルサレムの都に上るユダヤ人を歓迎するムードではなかったのでしょう。ガリラヤ地方を出てすぐの村ですから、ガリラヤ地方でのイエスさまの評判はこの村にまで伝わっていたかも知れません。そうするとイエスさまはユダヤ人が待望する救世主か、あるいは偉大なる預言者ということになります。そうなればユダヤ人が嫌いなサマリヤ人にはますます歓迎できる要素が少なくなります。

これを見てヤコブとヨハネの兄弟が第54節で物騒なことを言い出します。「主よ、私たちが天から火を呼び降らせて、彼らを焼き滅ぼしましょうか。」 マルコによるとイエスさまはゼベダイの息子の兄弟を雷の子と名付けたと書かれています(Mark 3:17/マルコの福音書第3章第17節)。きっと気性の激しい二人なのでしょう。「天から火を呼び降らせる」というのは、神さまが旧約聖書の「Genesis(創世記)」で邪悪と判断されたソドムの町を壊滅させた方法ですし、1 Kings 18(列王記上第18章)では最強の預言者エリヤが邪神バアルの預言者たちと対決した際に、彼らの目の前でいけにえや薪や石を焼き払って圧倒した方法です。さらにこの後でエリヤは、2 Kings 1(列王記下第1章)で敵対する北朝イスラエルの王アハズヤが差し向けた50人の軍隊を二度にわたってこの方法で焼き殺しています。雷の子のヤコブとヨハネはこれと同じことをここでやって思い知らせてやりましょうか、と言っているのだと思います。しかしイエスさまは二人を戒めて、そのまま次の村へ向かいます。






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