ルカの福音書第4章第14節~第30節:イエスさまがナザレで拒絶されるルカの福音書:第4章

2015年10月28日

ルカの福音書第4章第1節~第13節:イエスさまの誘惑

第4章




(英語は[NLT]、日本語は私の拙訳です。)


The Temptation of Jesus

イエスさまの誘惑


1 Then Jesus, full of the Holy Spirit, returned from the Jordan River. He was led by the Spirit in the wilderness,

1 それから聖霊に満たされたイエスさまはヨルダン川から戻りました。イエスさまは荒野で聖霊に導かれました。

2 where he was tempted by the devil for forty days. Jesus ate nothing all that time and became very hungry.

2 そこで40日の間、悪魔の誘惑を受けました。イエスさまはこの間、ずっと何も食べませんでしたので、非常に空腹になりました。

3 Then the devil said to him, “If you are the Son of God, tell this stone to become a loaf of bread.”

3 すると悪魔がイエスさまに言いました。「もしあなたが神の子なら、この石に、パンになるように命じなさい。」

4 But Jesus told him, “No! The Scriptures say, ‘People do not live by bread alone.’ ”

4 しかしイエスさまは悪魔に言いました。「いいえ。聖書には『人はパンだけで生きるのではない』と書いてあります。」

5 Then the devil took him up and revealed to him all the kingdoms of the world in a moment of time.

5 それから悪魔はイエスさまを上へと連れて行き、一瞬のうちに世界の王国のすべて示し、

6 “I will give you the glory of these kingdoms and authority over them,” the devil said, “because they are mine to give to anyone I please.

6 悪魔は言いました。「私はこれらの王国の栄光と、王国の支配権をあなたにあげましょう。なぜならそれは私のもので、私が好きな誰にでもあげることができるのです。

7 I will give it all to you if you will worship me.”

7 あなたにすべて差し上げましょう。もしあなたが私を崇拝するのなら。」

8 Jesus replied, “The Scriptures say, ‘You must worship the Lord your God and serve only him.’ ”

8 イエスさまは答えました。「聖書には『主である神さまを崇拝しなければならない。神さまだけに仕えなければならない』と書いてあります。」

9 Then the devil took him to Jerusalem, to the highest point of the Temple, and said, “If you are the Son of God, jump off!

9 それから悪魔はイエスさまをエルサレムの寺院の一番高いところへ連れて行き、言いました。「もしあなたが神の子なら、飛び降りなさい。

10 For the Scriptures say, ‘He will order his angels to protect and guard you.

10 なぜなら聖書には『神さまは天使たちに命じてあなたを守らせる。

11 And they will hold you up with their hands so you won’t even hurt your foot on a stone.’ ”

11 そして天使たちは手であなたをささえ、あなたが足を石に打ち当てて痛めることさえないようにする』と書いてあります。」

12 Jesus responded, “The Scriptures also say, ‘You must not test the Lord your God.’ ”

12 イエスさまは答えました。「聖書には『あなたの主である神さまを試すようなことをしてはならない』とも書いてあります。」

13 When the devil had finished tempting Jesus, he left him until the next opportunity came.

13 悪魔はイエスさまを誘惑するのを終えると、次の機会が来るまでの間、イエスさまから立ち去りました。




ミニミニ解説

「ルカの福音書」の第4章です。

第3章の最後はイエスさまの母方の家系図になっていましたが、イエスさまはその直前にヨルダン川でヨハネの洗礼を受けています。Luke 3:21-22(ルカの福音書第3章第21節~第22節)です。「21 さて、民衆がみなバプテスマを受けていたころ、イエスもバプテスマをお受けになり、そして祈っておられると、天が開け、22 聖霊が、鳩のような形をして、自分の上に下られるのをご覧になった。また、天から声がした。「あなたは、わたしの愛する子、わたしはあなたを喜ぶ。」([新改訳])。第4章はこの部分からの続きです。 イエスさまの上に鳩の形をした聖霊が降りて、イエスさまは聖霊に満たされました。その聖霊はイエスさまを荒涼とした荒野へと導いていきます。そこではイエスさまを試練が待ち受けているのです。

第2節によると試練は40日間に及び、その間イエスさまは何も食べませんでした。断食の苦行です。

ここに登場する「40」と言う数字は聖書の中では「試練」の数字として象徴的に使われます。たとえばノアの箱船のときに地球全体を洪水にした雨は40日間降り続きました。Genesis 7:1-4(創世記第7章第1節~第4節)です。「1 主はノアに仰せられた。「あなたとあなたの全家族とは、箱舟に入りなさい。あなたがこの時代にあって、わたしの前に正しいのを、わたしが見たからである。2 あなたは、すべてのきよい動物の中から雄と雌、七つがいずつ、きよくない動物の中から雄と雌、一つがいずつ、3 また空の鳥の中からも雄と雌、七つがいずつを取りなさい。それはその種類が全地の面で生き残るためである。4 それは、あと七日たつと、わたしは、地の上に四十日四十夜、雨を降らせ、わたしが造ったすべての生き物を地の面から消し去るからである。」([新改訳])。

ユダヤ人がモーゼに率いられて奴隷状態のエジプトから脱出した後、約束の地パレスチナに入るまでの間、砂漠をさまよい歩かされた期間は40年でしたし、またモーゼがその途中で神さまから「十戒」を授かる際に、シナイ山で過ごした日数も40日でした。Exodus 24:12-18(出エジプト記第24章第12節~第18節)です。「12 主はモーセに仰せられた。「山へ行き、わたしのところに上り、そこにおれ。彼らを教えるために、わたしが書きしるしたおしえと命令の石の板をあなたに授けよう。」 13 そこで、モーセとその従者ヨシュアは立ち上がり、モーセは神の山に登った。14 彼は長老たちに言った。「私たちがあなたがたのところに帰って来るまで、ここにいなさい。ここに、アロンとフルとがあなたがたといっしょにいます。訴え事のある者は、だれでも彼らに告げるようにしなさい。」 15 モーセが山に登ると、雲が山をおおった。16 主の栄光はシナイ山の上にとどまり、雲は六日間、山をおおっていた。七日目に主は雲の中からモーセを呼ばれた。17 主の栄光は、イスラエル人の目には、山の頂で燃え上がる火のように見えた。18 モーセは雲の中に入って行き、山に登った。そして、モーセは四十日四十夜、山にいた。」([新改訳])。

預言者エリヤがイゼベルの追求を逃れて死にそうになりながらホレブ山まで逃げ延びた日数も40日です。1 Kings 19:3-8(列王記第一第19章第3節~第8節)です。「3 彼は恐れて立ち、自分のいのちを救うため立ち去った。ユダのベエル・シェバに来たとき、若い者をそこに残し、4  自分は荒野へ一日の道のりを入って行った。彼は、えにしだの木の陰にすわり、自分の死を願って言った。「主よ。もう十分です。私のいのちを取ってください。私は先祖たちにまさっていませんから。」 5 彼がえにしだの木の下で横になって眠っていると、ひとりの御使いが彼にさわって、「起きて、食べなさい」と言った。6 彼は見た。すると、彼の頭のところに、焼け石で焼いたパン菓子一つと、水の入ったつぼがあった。彼はそれを食べ、そして飲んで、また横になった。7 それから、主の使いがもう一度戻って来て、彼にさわり、「起きて、食べなさい。旅はまだ遠いのだから」と言った。8 そこで、彼は起きて、食べ、そして飲み、この食べ物に力を得て、四十日四十夜、歩いて神の山ホレブに着いた。」([新改訳])。

40日も何も食べないでいると人間はいったいどうなってしまうのでしょうか。体力はとうの昔に限界を通り越していて、意識はもうろうとしていることでしょう。そういう限界を超えた極限状態のところへ、悪魔がやって来てイエスさまを誘惑するのです。

悪魔は三つの誘惑を行いますがイエスさまの回答はいずれも「聖書には~と書いてある」と聖書からの引用になっていまて、引用はいずれも旧約聖書の「Deuteronomy(申命記)」からです。これはユダヤ人がエジプトから脱出して後、40年間砂漠を放浪させられて、いよいよ約束の地パレスチナに入れると言うときになって、どうして自分たちは40年間も砂漠を放浪しなければならなかったのか、ユダヤ人に対する神さまの期待はどこにあるのか、それを確認するための本なのです。神さまの意図や期待を知ることができる、私の大好きな本です。

最初の誘惑は第3節です。悪魔は神の子であるならば石をパンに変えてみろ、とイエスさまに言います。そうやって自分の空腹を満たせば良い、と誘惑するのです。イエスさまの回答の「人はパンのみに生きるにあらず」の言葉は大変有名ですが、この言葉、いったいどういう文脈の中で言われた言葉なのか、この機会に読んでみるのが良いと思います。 Deuteronomy 8:1-3(申命記第8章第1節~第3節)です。「1 私が、きょう、あなたに命じるすべての命令をあなたがたは守り行なわなければならない。そうすれば、あなたがたは生き、その数はふえ、主があなたがたの先祖たちに誓われた地を所有することができる。2 あなたの神、主が、この四十年の間、荒野であなたを歩ませられた全行程を覚えていなければならない。それは、あなたを苦しめて、あなたを試み、あなたがその命令を守るかどうか、あなたの心のうちにあるものを知るためであった。3 それで主は、あなたを苦しめ、飢えさせて、あなたも知らず、あなたの先祖たちも知らなかったマナを食べさせられた。それは、人はパンだけで生きるのではない、人は主の口から出るすべてのもので生きる、ということを、あなたにわからせるためであった。」([新改訳])。

40年間の放浪生活の間、ユダヤ人は「マナ」と呼ばれるパンだけを食べていました。マナは毎朝、宿営のまわりの霧が晴れると地面に白い霜のようになって降りてくる食べ物です。聖書にはそれはコリアンダー(セリ科の一年草。生の葉をパクチーと呼ぶ)の種のようで、白くて、味は蜜を入れたせんべいのようであったと書かれています。ユダヤ人はこれだけを食べて40年間を生き延びたのです。どうして神さまはユダヤ人にマナを与えたのか。それは人がパンだけで生きるものではなく、神さまの口から出るすべてのもので生きることを学ぶためだった、と書かれています。イエスさまの回答はこれを引用し、神さまの子としての自分の存在は、石をパンに変えて自分個人の欲望を満たすためにあるのではなく、神さまの口から出るすべてのもの、つまり神さまの言葉や神さまの意志の中にあるのだ、と言って自分の運命を神さまの決断に委ね、やすやすと悪魔の誘惑に乗ることはありません。

第二の誘惑は第5節から、悪魔はイエスさまを高見へと連れて行き、一瞬の間にイエスさまに世界中の王国という王国を見せます。そしてその栄華と支配権を全部イエスさまにあげよう、ただし自分を崇拝するなら、と言うのです。これに対するイエスさまの答えは聖書全体を貫く根本の教えになっています。この教えは「十戒」にもこめられていますし、他の場所にも繰り返し登場する教えです。たとえばDeuteronomy 10:12-13(申命記第10章第12節~第13節)を引用します。ここには「12 イスラエルよ。今、あなたの神、主が、あなたに求めておられることは何か。それは、ただ、あなたの神、主を恐れ、主のすべての道に歩み、主を愛し、心を尽くし、精神を尽くしてあなたの神、主に仕え、13 あなたのしあわせのために、私が、きょう、あなたに命じる主の命令と主のおきてとを守ることである。」([新改訳])と書かれています。人間には、ただひとり、創造主である神さまだけを全力で愛し信じることが求められているのです。

イエスさまは福音書の中で、旧約聖書の律法の中にはたくさんのルールが書かれているが、その中で大切な教えはどれなのか、ときかれたときにきっちりと二つを答えています。そのうちの一つがやはりこの言葉です。Matthew 22:36-40(マタイの福音書第22章第36節~第40節)です。「36 「先生。律法の中で、たいせつな戒めはどれですか。」 37 そこで、イエスは彼に言われた。「『心を尽くし、思いを尽くし、知力を尽くして、あなたの神である主を愛せよ。』 38 これがたいせつな第一の戒めです。39 『あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ』という第二の戒めも、それと同じようにたいせつです。40 律法全体と預言者とが、この二つの戒めにかかっているのです。」([新改訳])。

第三の誘惑は第9節。悪魔はイエスさまをエルサレムの寺院の高い塔の上に立たせて、そこから飛び降りろと言います。驚くべきはその理由として悪魔が聖書を引用するところです。悪魔が引用したのはPsalms 91(詩編第91章)からです。詩編のこの部分は、たとえどんなことがあっても、神さまは神さまを信頼して頼る人を必ず助けてくれる、と書かれている部分です。Psalms 91:1-12(詩編第91章第1節~第12節)を引用します。悪魔が引用したのは引用箇所の最後のところです。「1 いと高き方の隠れ場に住む者は、全能者の陰に宿る。2 私は主に申し上げよう。「わが避け所、わがとりで、私の信頼するわが神」と。3 主は狩人のわなから、恐ろしい疫病から、あなたを救い出されるからである。4 主は、ご自分の羽で、あなたをおおわれる。あなたは、その翼の下に身を避ける。主の真実は、大盾であり、とりでである。5 あなたは夜の恐怖も恐れず、昼に飛び来る矢も恐れない。6 また、暗やみに歩き回る疫病も、真昼に荒らす滅びをも。7 千人が、あなたのかたわらに、万人が、あなたの右手に倒れても、それはあなたには、近づかない。8 あなたはただ、それを目にし、悪者への報いを見るだけである。9 それはあなたが私の避け所である主を、いと高き方を、あなたの住まいとしたからである。10 わざわいは、あなたにふりかからず、えやみも、あなたの天幕に近づかない。11 まことに主は、あなたのために、御使いたちに命じて、すべての道で、あなたを守るようにされる。12 彼らは、その手で、あなたをささえ、あなたの足が石に打ち当たることのないようにする。」([新改訳])。

イエスさまの答えは、Deuteronomy 6:16(申命記第6章第16節)からの引用です。「あなたがたがマサで試みたように、あなたがたの神、主を試みてはならない。」([新改訳])。「マサ」と言うのは地名です。ユダヤ人が40年間、砂漠をさまよった間に通った場所の一つです。ユダヤ人は砂漠を歩いている間、ずっと不平不満を言い続けます。エジプトを脱出したときには、モーゼが杖を振ると目の前の紅海が真っ二つに割れて、ユダヤ人は乾いた海底を歩いて向こう岸へ渡り、ユダヤ人を追って同じ場所へ押し寄せたエジプト軍は海の中に沈みました。砂漠の厳しい気候の中で、神さまは日中は雲の柱を立ててユダヤ人を日差しから守り、夜は火の柱を立てて人々を寒さから守りました。食糧としては空からマナを降らせ、夕刻にはウズラの群れを飛来させました。そうやってユダヤ人は神さまの驚くべき力の行使を自分たちの目で見たのですから、神さまの存在を疑う余地はまったくなかったはずなのです。それなのにユダヤ人は不平不満を言いつのり、リーダーのモーゼを疲弊させます。その出来事の一つが「マサ」で起こりました。Exodus 17:1-7(出エジプト記第17章第1節~第7節)です。

「1 イスラエル人の全会衆は、主の命により、シンの荒野から旅立ち、旅を重ねて、レフィディムで宿営した。そこには民の飲む水がなかった。2 それで、民はモーセと争い、「私たちに飲む水を下さい」と言った。モーセは彼らに、「あなたがたはなぜ私と争うのですか。なぜ主を試みるのですか」と言った。3 民はその所で水に渇いた。それで民はモーセにつぶやいて言った。「いったい、なぜ私たちをエジプトから連れ上ったのですか。私や、子どもたちや、家畜を、渇きで死なせるためですか。」 4 そこでモーセは主に叫んで言った。「私はこの民をどうすればよいのでしょう。もう少しで私を石で打ち殺そうとしています。」 5 主はモーセに仰せられた。「民の前を通り、イスラエルの長老たちを幾人か連れ、あなたがナイルを打ったあの杖を手に取って出て行け。6 さあ、わたしはあそこのホレブの岩の上で、あなたの前に立とう。あなたがその岩を打つと、岩から水が出る。民はそれを飲もう。」そこでモーセはイスラエルの長老たちの目の前で、そのとおりにした。7 それで、彼はその所をマサ、またはメリバと名づけた。それは、イスラエル人が争ったからであり、また彼らが、「主は私たちの中におられるのか、おられないのか」と言って、主を試みたからである。」([新改訳])。

神さまは間違いなくユダヤ人を助けるのです。ユダヤ人はただそれを信じて疑うことなく行動すれば良かったのです。塔の上に立たされたイエスさまも同じです。塔からイエスさまが落ちれば、神さまは間違いなくイエスさまを助けるのです。しかしそれをわざわざ試すと言うことは、神さまを疑うことになります。私たちはただ、神さまの存在と愛を信じれば良いのです。

第13節、三つの誘惑を退けられた悪魔は退散します。しかしそれは「次の機会が来るまでの間」だと書かれています。福音書の中にも、イエスさまの人類救済の使命をくじこうとする出来事が何度も繰り返し登場します。イエスさまは様々な形で挑戦を受け続けるのです。その出来事の裏では悪魔が暗躍していたのかも知れません。実際にそういう出来事のいくつかでは、悪魔が関与したことが書かれています。






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