2015年10月31日

ルカの福音書第1章第1節~第4節:はじめに

第1章


 
(英語は[NLT]、日本語は私の拙訳です。)


Introduction

はじめに


1 Many people have set out to write accounts about the events that have been fulfilled among us.

1 私たちの間で完遂された出来事について、多くの人たちが説明の記事を書き始めて来ています。

2 They used the eyewitness reports circulating among us from the early disciples.

2 その人たちは、私たちの間で流布されている、初期の弟子たちによる目撃証言を用いました。

3 Having carefully investigated everything from the beginning, I also have decided to write a careful account for you, most honorable Theophilus,

3 すべての出来事について最初から注意深く調査を行いまして、私もあなた様のために念入りな報告書を書くことを決断しました。最も尊敬するテオピロ様。

4 so you can be certain of the truth of everything you were taught.

4 それであなた様も、教えられたことすべてについて、それが真実であると確証できるようにと思いまして。




ミニミニ解説

「ルカの福音書」の最初の部分です。

第3節の最後に[NLT]の「most honorable Theophilus」を私が「最も尊敬するテオピロ様」と訳して書いてありますが、この第1節~第4節の部分は「ルカの福音書の」書き手のルカが、「テオピロ」という人物に宛てた冒頭の言葉になっています。

このテオピロが誰なのかはわかりません。[NLT]の「most honorable Theophilus」や、[KJV]の「most excellent Theophilus」は、辞書を引くと『新和英中辞典』(研究社)に「the Most Honourable」をイギリスでは「侯爵」の所有者への敬称で用いるなどと書かれており、これはつまり、かなり高位の目上の人への呼びかけにあたる言葉なのだと思います。テオピロは恐らくローマ帝国の有力者だったのであろうとか、あるいはルカを金銭的に支援していたパトロン的な人物だったのではないか、などと考えられています。

また「Theophilus」の「Theo」が「神」を表し、「Philo」が「愛」を表す言葉であるため、「テオピロ」を「神を愛する人」と解釈することも可能で、たとえば書き手のルカは「テオピロ」という架空の人物の名前を使って「神を愛する人」全般に向けてこの福音書を記述したのではないか、という考えもあります。

ちなみに前回の紹介で新約聖書に含まれる「ルカの福音書」と「Acts(使徒の働き)」について、一冊の本の前編・後編という感じで展開しますと紹介しましたが、後編の「使徒の働き」の冒頭にもテオピロは登場します。Acts 1:1-2(使徒の働き第1章第1節~第2節)です。「1 テオピロよ。私は前の書で、イエスが行ない始め、教え始められたすべてのことについて書き、2 お選びになった使徒たちに聖霊によって命じてから、天に上げられた日のことにまで及びました」([新改訳])。ここに出てくる「前の書」が「ルカの福音書」のことです。ここの説明ではその「ルカの福音書」には「イエスが行ない始め、教え始められたすべてのこと」が書かれ、その範囲が最後にイエスさまが「使徒たちに聖霊によって命じて」、さらに「天に上げられた日」までだったとしています。「使徒の働き」には「ルカの福音書」の続き、その後の話が書かれているのです。

では今回の部分を最初から見てみましょう。第1節~第2節には「私たちの間で完遂された出来事について、多くの人たちが説明の記事を書き始めて来ています」「その人たちは、私たちの間で流布されている、初期の弟子たちによる目撃証言を用いました」と書かれています。

「私たちの間で完遂された出来事」と言うのはイエスさまが成し遂げたことについてです。それはつまりイエスさまが「十字架死」で達成したことは何だったのか、その意味についてです。

これについて「多くの人たちが説明の記事を書き始めて来ています」としています。これは「マタイの福音書」の中で、「マタイ」・「ルカ」=「マルコ」+「Q資料」+「独自の資料」の式を使って説明しましたが、まず「マルコ」が「多くの人たちが書き始めている説明の記事」の筆頭にあたると思います。新約聖書に含まれる四つの福音書のうち、「マタイ」「マルコ」「ルカ」の三冊を共観福音書と呼び、この中では「マルコ」が最初に書かれて、その「マルコ」を土台にして「マタイ」と「ルカ」が書かれたという見方がほぼ確立していると前回も書きました。

これに加えて「Q資料」があります。「マタイ」と「ルカ」は「マルコ」を元にして、そこに「追加」をする形で作成されたことがわかっていますが、実は「マタイ」と「ルカ」で追加された情報には共通点が多いのです。ここから「マタイ」と「ルカ」の編集には何かの「同じ文献」に基づく追加作業が行われたと理解されています。この文献は「マタイ」と「ルカ」の共通点を研究すると、恐らくイエスさまの言葉を集めた「語録集」のような文書だったはずで、聖書の研究分野では仮に「Q資料」と呼ばれています(「Q」はドイツ語の「資料」にあたる単語の頭文字)。実は「Q資料」そのものはこれまで一度も見つかって来なかったのです。ずっと長い間見つからなかったので、存在そのものが疑われて来ましたが、つい最近、1945年に見つかった「トマスの福音書」の内容が語録集に近い形態だったことから、このところは「Q資料」の存在を支持する説が強くなっているようです。

それにさらに加えて「使徒名の書簡」です。新約聖書には「~人への手紙」という本がたくさん収録されていますが、「ルカ」の記述者はこれらにも目を通していたはずです。これは「ルカの福音書」と「使徒の働き」がいつ成立したのか、という問題にも絡んでくるので(明確な答えは出ていません)、諸説あるのですが、「使徒の働き」にはパウロが処刑のためにローマへ送られるところまで書かれているので、「使徒名の書簡」についても「ルカ」の記述者が知っていたと考えても不自然ではありません。

第3節、「ルカ」の記述者は「すべての出来事について最初から注意深く調査を行い」、テオピロという人物のために「念入りな報告書を書くことを決断し」たと書いています。ルカ本人はどうやら医者であり、誰よりもギリシア語に精通していて、文学的品質もとても高い文章の書き手なのです。その人がイエスさまにまつわるできごとのすべてを、綿密な調査に基づいて念入りに報告しましょう、と言っています。心躍りますねぇ。

第4節にはその理由が書かれています。「それであなた様も、教えられたことすべてについて、それが真実であると確証できるようにと思いまして」。つまりルカはテオピロに、イエスさまについて言われていることが真実であると確証してもらいたいのです。イエスさまを信じてもらいたいのです。






english1982 at 22:00│ルカの福音書