使徒の働き:第18章使徒の働き第17章第1節~第15節:パウロがテサロニケで伝道する、ベレヤのパウロとシラス

2015年08月15日

使徒の働き第17章第16節~第34節:パウロがアテネで伝道する

第17章




(英語は[NLT]、日本語は私の拙訳です。)


Paul Preaches in Athens

パウロがアテネで伝道する


16 While Paul was waiting for them in Athens, he was deeply troubled by all the idols he saw everywhere in the city.

16 アテネでシラスとテモテを待っている間、パウロは市内のいたるところにある偶像の山に大変頭を痛めていました。

17 He went to the synagogue to reason with the Jews and the God-fearing Gentiles, and he spoke daily in the public square to all who happened to be there.

17 パウロは会堂へ行ってユダヤ人や神さまを畏れる異邦人たちと議論し、広場では毎日、そこに居合わせた人たち全員と話しました。

18 He also had a debate with some of the Epicurean and Stoic philosophers. When he told them about Jesus and his resurrection, they said, “What’s this babbler trying to say with these strange ideas he’s picked up?” Others said, “He seems to be preaching about some foreign gods.”

18 パウロはエピクロス派とストア派の哲学者たちとも討論しました。パウロがイエスさまと、その復活について話すと、哲学者たちは言いました。「このおしゃべりは妙な思想を持ちだしてきていったい何を言いたいのだろうか。」 他の人たちは言いました。「どうも彼は外国の神々のことを伝えているようだ。」

19 Then they took him to the high council of the city. “Come and tell us about this new teaching,” they said.

19 それから哲学者たちはパウロを市の高等議会へ連れて行きました。彼らは言いました。「その新しい教えについて私たちに話してください。」

20 “You are saying some rather strange things, and we want to know what it’s all about.”

20 「あなたは奇妙な事柄を伝えています。私たちはそれがどのようなものなのか知りたいのです。」

21 (It should be explained that all the Athenians as well as the foreigners in Athens seemed to spend all their time discussing the latest ideas.)

21 (アテネ人も、アテネに住む外国人も、みながもっぱら新しい思想を議論して日々の時間を過ごしているようなのでした。)

22 So Paul, standing before the council, addressed them as follows: “Men of Athens, I notice that you are very religious in every way,

22 そこでパウロは高等議会の前に立ち、次のように話しかけました。「アテネのみなさん、私はあなた方があらゆる面でとても信心深いと気づいています。

23 for as I was walking along I saw your many shrines. And one of your altars had this inscription on it: ‘To an Unknown God.’ This God, whom you worship without knowing, is the one I’m telling you about.

23 と言うのも私が歩いていると、あなた方の神殿がたくさん目に入りましたから。そしてあなた方の祭壇のひとつには『未知の神に』と刻まれていました。この、あなた方が知ることなしに崇拝している神さまこそが、私があなた方に伝えている方なのです。

24 “He is the God who made the world and everything in it. Since he is Lord of heaven and earth, he doesn’t live in man-made temples,

24 この方は世界とその中にあるすべてのものをお造りになった神さまです。この方は天と地の主ですから、人が作った寺院には住みません。

25 and human hands can’t serve his needs -- for he has no needs. He himself gives life and breath to everything, and he satisfies every need.

25 そして人が神さまの必要に応えることは出来ません。なぜなら神さまに不足の品はないからです。神さまご自身がすべてのものにいのちと息を与え、あらゆる必要を満足させているのです。

26 From one man he created all the nations throughout the whole earth. He decided beforehand when they should rise and fall, and he determined their boundaries.

26 神さまはひとりの人間から地球上のすべての国民を造りました。神さまはあらかじめ国々の興亡の時期を決めておられ、国々の国境を定めました。

27 “His purpose was for the nations to seek after God and perhaps feel their way toward him and find him -- though he is not far from any one of us.

27 神さまの目的は、国々の人たちに神さまを求めさせ、おそらく神さまへの道を感じさせ、神さまを見つけさせることです。神さまは私たちの誰からも遠く離れてはいないのですが。

28 For in him we live and move and exist. As some of your own poets have said, ‘We are his offspring.’

28 なぜなら私たちは神さまの中に生き、動き、存在しているからです。あなた方自身の詩人の中に『私たちはその子孫である』と言った人がいたように。

29 And since this is true, we shouldn’t think of God as an idol designed by craftsmen from gold or silver or stone.

29 これが真実なのですから、私たちは神さまを、職人が金や銀や石などからデザインした偶像として考えるべきではありません。

30 “God overlooked people’s ignorance about these things in earlier times, but now he commands everyone everywhere to repent of their sins and turn to him.

30 神さまは以前はこのような人々の無知を大目に見ていましたが、いまや神さまはあらゆる地域のすべての人に、自分の罪を悔い、神さまに向き直るように命じているのです。

31 For he has set a day for judging the world with justice by the man he has appointed, and he proved to everyone who this is by raising him from the dead.”

31 なぜなら神さまは、神さまが任命したある人により、世の中を正義で裁く日を決めたからです。そして神さまはそれが誰であるかを、その人を死者の中からよみがえらせることによって、すべての人に証明したのです。」

32 When they heard Paul speak about the resurrection of the dead, some laughed in contempt, but others said, “We want to hear more about this later.”

32 哲学者たちはパウロが死者の復活のことを話すのを聞くと、ある者たちは軽蔑して笑いましたが、他の者たちは「このことについて後でもっと聞きたい」と言いました。

33 That ended Paul’s discussion with them,

33 これでパウロの哲学者たちのと議論は終了しました。

34 but some joined him and became believers. Among them were Dionysius, a member of the council, a woman named Damaris, and others with them.

34 しかし中にはパウロに合流して信者となった人もいました。その中には高等議会のメンバーのデオヌシオ、ダマリスという女、そして一緒にいた他の人々が含まれていました。




ミニミニ解説

「使徒の働き」の第17章です。

パウロはシラスを連れて第二回目の伝道の旅に出ています。

パウロはエーゲ海に面したトロアスの港に来たところで幻を見ます。幻の中ではギリシヤ北部のマケドニヤ人が、マケドニヤに来て私たちを助けてください、とパウロを招きました。一行はサモトラケ島(サモトラキ島)経由でマケドニアのネアポリスに上陸し、ピリピへ到着すると、ピリピにしばらく滞在します。

ピリピではパウロとシラスは逮捕され、棒で打たれて投獄されてしまいます。翌日釈放されると、ふたりはマケドニア州の州都テサロニケ(テッサロニキ)へ向かいました。テサロニケではパウロとシラスに嫉妬を抱くユダヤ人が現れ、暴動が起こります。難を逃れたふたりは次の町、ベレヤに向かいました。ところがテサロニケのユダヤ人はふたりをベレヤまで追いかけて来て、パウロはシラスとテモテを残して町を脱出し、前回、アテネに至りました。

下の地図ではパウロの第二回目の伝道旅行は、緑色の線で表されています(地図は『New Illustrated Bible Dictionary』より)。

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シラスとテモテの合流を待つ間、パウロは安息日(土曜日)にはユダヤ人の会堂で、それ以外の日には市の広場で人々に福音を説いていました。現ギリシヤ共和国の首都アテネは、古代ギリシヤの都市国家のひとつでした。紀元前5世紀のペルシヤ戦争で、ギリシヤ連合軍がアケメネス朝ペルシヤを破ってから急速に力を伸ばしますが、専横化したことで他の都市国家(ポリス)の反発を買い、ペロポネソス戦争でライバルの都市国家スパルタに敗れて衰退します。やがて他の都市国家と共にローマ帝国の支配下に入りました。一方でアテネには、急速に力を伸ばした時代にギリシヤ各地から学者や芸術家が集まり、以降、ギリシヤ文化の中心地となりました。パウロが広場(アゴラ)で討論したエピクロス派とストア派の哲学者は、多数あるヘレニズム時代以降の哲学学派の代表格で、私たちが習う世界史の教科書にも登場します。

哲学者たちがパウロを連れて行った高等議会は「アレオパゴス」です。古代ローマの元老院のようなイメージで、アテネの貴族階級が構成する議会です。アテネの政治や裁判に大きな影響力を持ちました。場所はアテネの中心に立つアクロポリスの丘のパルテノン神殿からやや西にある小さな岩山にありました。

パウロがアレオパゴスに宛てて行った演説は大変素晴らしい内容です。何しろ相手は哲学の中心地の最高議会、つまり世の中のことすべてを人間の英知で解決しようと、日々議論に明け暮れている地域の権力者たちです。これはクリスチャンが一般の知識人を相手に聖書を説明する際の良いお手本となります。

第22節~第23節、パウロの演説は「アテネのみなさん、私はあなた方があらゆる面でとても信心深いと気づいています。と言うのも私が歩いていると、あなた方の神殿がたくさん目に入りましたから。そしてあなた方の祭壇のひとつには『未知の神に』と刻まれていました。この、あなた方が知ることなしに崇拝している神さまこそが、私があなた方に伝えている方なのです。」とスタートします。まず聞き手を褒め、市内にあるたくさんの神殿の話をし、その中で見かけた祭壇の一つに書かれていた言葉をきっかけに取り上げています。これは最初に聞き手の心をつかむテクニックのひとつで、パウロが話者としてどれほど優れていたかがうかがい知れます。「信心深い」とは言っても、ギリシヤ人にとっての神と言えば、ゼウスを主神とする多神教のギリシヤ神話です。市内には神話に登場する様々な神を奉る神殿があちこちにあり、『未知の神に』とされた碑さえ、多神教の概念の中での名もない神のことにすぎないでしょう。しかしパウロは聞き手の心をつかむために、聞き手の理解しやすいトピックから導入していくのです。

第24節~第25節、パウロはギリシヤ文化思想とまったく逆の概念を語ります。「この方は世界とその中にあるすべてのものをお造りになった神さまです。この方は天と地の主ですから、人が作った寺院には住みません。そして人が神さまの必要に応えることは出来ません。なぜなら神さまに不足の品はないからです。神さまご自身がすべてのものにいのちと息を与え、あらゆる必要を満足させているのです。」 たしかにアテネには多種多様の文化や哲学が集結しているのかも知れませんが、そこには創造主として、世界と、そこにあるすべてのものを造られたただひとりの神さまがいること、そしてその神さまは全知全能であり、いまこの瞬間も万物の支配者として宇宙の運行のすべてを司っていることを伝えます。

第26節、「神さまはひとりの人間から地球上のすべての国民を造りました。神さまはあらかじめ国々の興亡の時期を決めておられ、国々の国境を定めました。」 多種多様な人間が日々議論を繰り返す文化の都アテネではありますが、神さまはそれを最初に創造されたたった一人の人間から派生させて造られたのです。諸国の民族が互いに衝突し、栄えたり滅びたりする歴史も、諸国が争う国境線も、すべて神さまがあらかじめ決めた計画に沿って動いて来た結果なのです。

第27節は大変興味深いです。「神さまの目的は、国々の人たちに神さまを求めさせ、おそらく神さまへの道を感じさせ、神さまを見つけさせることです。」とあります。パウロが説く神さまの目的は、私たちに神さまを求めさせることにあるのです。私たちには喜びに溢れる日も、悲しみに暮れ思い悩む日もあります。自分はなぜ存在するのか、私たちはどこから来てどこへ行くのか、答が知りたい日もあります。私たちはなぜ喜ぶのか、私たちはなぜ悲しむのか、私たちはなぜ答を知りたいのか。パウロはそれが神さまの目的だからだと言います。神さまの目的は私たちを渇望させ、神さまを求めさせることなのです。苦しみのどん底にあってもどこかに必ず答に至る道があると私たちに感じさせ、それをどこまでも追求させるのです。そして私たちには最終的に神さまに到達する方法として、こうして「聖書」が用意されています。聖書は救世主の到来を予告する旧約聖書に、待望の救世主の到来と、さらに救世主の再来を約束する新約聖書が組み合わさって完成しているのです。聖書は私たちを神さまに到達させるために地上に用意された唯一の地図なのです。

第28節、「なぜなら私たちは神さまの中に生き、動き、存在しているからです。あなた方自身の詩人の中に『私たちはその子孫である』と言った人がいたように。」 私たちはとてつもなく大きな神さまの中に存在して生きています。どこに果てがあるのかわからない広大な宇宙が神さまの中にあるのです。ギリシヤ思想の中で言われた『私たちはその子孫である』と言う言葉は、もちろんギリシヤ神話のゼウスの子孫である、と言う意味なのでしょうが、パウロはこれさえ演説の中に織り込んでしまいます。

第29節、「これが真実なのですから、私たちは神さまを、職人が金や銀や石などからデザインした偶像として考えるべきではありません。」 神さまは私たちが果てを知り得ぬ宇宙を内包するほどの存在なのですから、私たちには神さまを偶像化することなど不可能です。どのような形にせよ、偶像化されれば神さまはその偶像の中に限定されてしまいます。私たちは神さまの果てを知ることが出来ません。神さまはどこまでも無限であり未知なのです。

第30節~第31節、「神さまは以前はこのような人々の無知を大目に見ていましたが、いまや神さまはあらゆる地域のすべての人に、自分の罪を悔い、神さまに向き直るように命じているのです。なぜなら神さまは、神さまが任命したある人により、世の中を正義で裁く日を決めたからです。そして神さまはそれが誰であるかを、その人を死者の中からよみがえらせることによって、すべての人に証明したのです。」 神さまはユダヤ人に聖書を残す役目を与え、多くの預言者を送り、そこで繰り返し自分たちの罪を自覚して悔い、行動を改めて神さまに向き直るようにと書き留めさせました。私たちがそれを知ったいま、そこから目をそらすことは出来ません。それどころか十字架死からの復活で救世主であることを証明したイエスさまは、神さまに対して誠意を欠く人を裁く、裁判官として任命された方なのです。そしてその裁きの日、「終わりの日」がいつ来るのかも神さまはすでに決めているのです。

第32節~第34節、パウロの話が終了すると、聞いていたアレオパゴスの議員たちは、それを鼻で笑う者たちと、興味を示す者たちに分かれます。前者が圧倒的多数だろうと推察しますが、中にはパウロの伝える福音を受け入れて信者となる者もいたのです。




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